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青年海外協力隊は何をもたらしたか? 書籍発刊セミナーで議論

2018年7月10日

JICA研究所は、2018年6月25日、研究プロジェクト「青年海外協力隊の学際的研究」の成果である書籍『青年海外協力隊は何をもたらしたか~開発協力とグローバル人材育成50年の成果』(岡部恭宜編著、ミネルヴァ書房刊)の発刊を記念したセミナーを開催しました。

まず、JICA研究所の萱島信子所長が開会のあいさつとして、「これまでにも青年海外協力隊を対象とした研究はいくつかあるが、JICA研究所だからこそできる研究をとの思いから、2011年に始まったのが本研究。青年海外協力隊事業をアカデミックに検証するこの新しい取り組みは、事業評価の枠を超えて今後の協力隊事業の活動に多くの示唆をもたらすことができる研究である。本書は、隊員の成長の記録に留まらず、同事業を多角的かつ学際的に分析している点が非常にユニーク」と紹介し、本書発刊の意義を語りました。

本書の編著者を務めたJICA研究所の岡部恭宜客員研究員

次に、編著者の岡部恭宜JICA研究所客員研究員(東北大学教授)が、本書の概略を説明。特に、A5判で320ページもの大部になった点に触れ、歴史、組織・制度、隊員の活動、国際比較など、協力隊事業のさまざまな側面から、事業目的である開発協力と人材育成において協力隊は何をもたらしたか、という問いに回答するものだと強調しました。また、研究アプローチも、人文・社会科学のさまざまな学問に依拠し、定性・定量の両面から分析していることが紹介されました。

左から、JICAの山本美香青年海外協力隊事務局長、大阪大学の白川千尋教授、特定非営利活動法人開発メディア代表理事/ganas編集長の長光大慈氏が論評

続いて、協力隊に参加した経験もある3人から、本書に対する論評が行われました。

大阪大学の白川千尋教授は、「協力隊事業についてこれほど包括的・学術的な研究はなく、今後必ず参照されるべきパイオニア的な書籍」と評価。その上で、本書で取り上げられていない事項として、隊員が派遣される前に受ける事前研修や帰国隊員のキャリアパスに関するプロセス分析、また、個別の隊員ではなく、グループ型派遣や何代にもわたって派遣される活動群としての分析も可能ではないかといった新たな視点を示しました。

特定非営利活動法人開発メディア代表理事/ganas編集長の長光大慈氏は、隊員が「専門性の弱さ」を自覚し、「人間力」を発揮して現場に入り込むことが活動をうまく展開するコツと話し、JICAによる隊員への支援に対して問題提起がなされました。さらに、JICAの山本美香青年海外協力隊事務局長は、「協力隊事業の成果に対する評価手法の確立が途上にある中、人材育成の側面からの分析が意欲的になされている」と評しました。

左から、JICA研究所の細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザー、上田直子JICA職員、JICA研究所の大貫真友子研究員がラウンドテーブルに参加

後半のラウンドテーブルでは、さらに3人が加わり議論。協力隊に関する研究に参加しているJICA研究所の大貫真友子研究員は、社会心理学を専門とする立場から、隊員へのインタビューとデータ計量分析を両立させている本研究の独自性を指摘。今後の課題として、「協力隊の活動がどれだけ社会に還元されているか研究していきたい」と話しました。

また、同書の執筆も担ったJICA研究所の細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザーは、中米での算数教育プロジェクトなどを例に、協力隊事業がキャパシティー・ディベロップメントに果たす役割の大きさを強調しました。バングラデシュ看護サービス人材育成プロジェクトのチーフアドバイザーを務めた上田直子JICA職員からは、執筆者の一人として、協力隊を中心とする援助の現場の人々の「感情」の観点から、人々の信頼や規範などのソーシャル・キャピタルを考察した論考の紹介がありました。

会場からの質問も多く、活発な意見が交わされた

最後に、会場との質疑応答でも熱のこもった議論が展開されました。隊員が活動する現場で暮らす人々の声をもっと盛り込むべきではないかといった本書に関するコメントのほか、現場のニーズに応える人材をどう見つけるのか、事前にヒアリングした現地の要請内容と隊員派遣時の状況のギャップをどう埋めるのかなど、協力隊事業に対する課題の指摘もありました。研究への本質的な問いかけとして、協力隊事業の定量評価はそもそも可能なのかといった質問も上がり、岡部客員研究員や大貫研究員からは「可能ではあるものの、成功していると言える段階ではないため、今後の宿題と受け止めたい」という応答がありました。

岡部客員研究員は、「協力隊の成果といっても、一方では隊員個人の成果があり、他方では事業全体の成果がある。本日の議論で見えてきた一つの研究課題は、これらをどのように整理し、結びつけるかということ。個人の成果の総和イコール事業の成果なのか、それとも個人の成果の積み重ねを超えて事業自体が持ち得る成果があるのか。いわば事業の『価値』と呼び得るものを日本社会や国際社会に提示できるのか、それはどのようなものか、さらに考察していきたい」と述べ、セミナーを締めくくりました。

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