JICA緒方研究所

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T20による政策提言に向けてアジアの有識者が議論—KDI大学院とセミナーを開催

2019年3月5日

意見を交わす大野研究所長(右端)と萱島主席研究員(右から2番目)

2019年2月14日、JICA研究所と韓国開発研究院(Korea Development Institute:KDI)の公共政策・経営大学院(KDI School of Public Policy and Management)は、Think 20 (T20)がG20に対して行う政策提言にアジアの視点を反映させるべく、韓国ソウルにてセミナー「KDI School‐JICA‐RI Sustainable Development Goals (SDGs) Joint Conference」を開催しました。

現在T20では、2019年5月末の東京での本会合に向け、10の政策分野で立ち上げられたタスクフォースの中で各国のシンクタンクによる議論が重ねられています。JICA研究所は、このタスクフォースのうち、タスクフォース1「持続可能な開発のための2030アジェンダ(SDGs)」の共同議長を務めています。今回は、SDGs、特に教育、民間セクター、科学技術、ジェンダーを対象として、アジアの有識者約20人による活発な意見交換が行われました。

開会のあいさつで、KDI大学院のリム副学長が各国からの参加者を歓迎する意を表し、続くプレゼンテーションでは「ワシントン・コンセンサス」に代わる開発パラダイムを考える視点や「ミレニアム開発目標(MDGs)」の評価と限界を概観したうえで、2010年のG20ソウルサミットからポスト2015に至る開発論議、それに対する韓国の知的貢献について発表しました。

その後登壇したJICA研究所の大野泉研究所長は、G20における日本の取り組みとして、8つの重点領域を挙げ、SDGs達成に向けたJICAの貢献などを紹介しました。また、過去のG20の議題の流れを受けた今年のT20の体制や議題、SDGsタスクフォースで取り上げる6つの分野(ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)、開発における教育、開発のための持続可能な金融、SDGs達成のための民間セクターの役割、科学技術協力とジェンダー)についても紹介しました。

セッション1「SDGs実施における教育開発」では、JICA研究所の萱島信子主席研究員が基調講演を行いました。萱島主席研究員は、教育をSDGs達成のために不可欠な要素ととらえ、ゴール4の教育に関するこれまでの進捗について発表。さらに、非認知的能力の育成、幼児教育(Early Childhood Development:ECD)、女子教育などをG20への政策提言で取り上げる予定であること説明し、JICAがこれまで取り組んできた「みんなの学校」プロジェクトや、理数科の教員の養成、運動会の普及などの具体的な事例を紹介しました。パネリストからは、過去の実施事案からの教訓をもとに、教育の量的拡大においては、入学率だけでなく修了率や在籍率にも着目すべきであるといった意見や、デジタルスキルや幼児教育への強化については教育セクターからのアプローチだけではなく、子どもの発達に必要なゴール2の栄養セクターとの連携や、特に女子教育の文脈においてゴール8の労働市場との橋渡しが必要であるといった指摘がありました。

セッション2「SDGs実施における民間セクターの役割」では、政策研究大学院大学(GRIPS)の紺屋健一教授が、課題として1)ビジネス界におけるSDGsの理解とアクションとのギャップ解消、2)短期的な収益の最大化から長期・社会的な利益の重視、3)企業とステークホルダーの相互作用の重要性の理解促進、4)開発途上国がグローバルバリューチェーン(GVC)に適切に参画していくための能力構築、を紹介しました。また、そのための提案として1)企業の経営戦略と行動の中心にSDGsを位置付ける、2)持続可能な開発に貢献する経済的な仕組みの構築、3)全てのステークホルダーに恩恵をもたらすエコシステムの構築、4)開発途上国のGVC参画の促進に向けた政策改善などを紹介しました。パネルディスカッションでは、韓国大宇社がかつて実施した現地人材育成を通じたバングラデシュの繊維産業への貢献、米MARS社による企業利益以外の地球や人々への貢献も成果指標とする取り組みなどを踏まえた議論が行われました。

セッション3「SDGs実施における科学技術協力」では、インド開発途上国研究情報システムセンター(RIS)のサチン・チャタルベディ所長が、科学技術協力による技術移転や知財分野の課題について、気候変動、ワクチン開発、再生可能エネルギーの事例を挙げて発表しました。パネルディスカッションでは、中国での大手通信販売業者の新興にみられるような都市の発達に伴うニーズの変化について指摘されたほか、知財との問題に関して、一部の科学技術は公共財として扱うべきといった意見、教育現場への導入による子どもの発育状況に合わせたきめ細かな教育プログラムの構築の可能性、科学技術の農業開発への応用の可能性などについてコメントがありました。

セッション4「SDGs実施におけるジェンダー開発」では、Women’s Economic Imperative代表兼チャタムハウス研究員のマルゴ・トーマス氏が、女性の経済エンパワーメントに関する概要を紹介し、労働、金融、デジタル分野への女性の参加の必要性に加え、公的機関、民間分野それぞれの進捗のモニタリングのための指標の開発の必要性を訴えました。パネルディスカッションでは、家事などの無償労働の問題や過去の日本の課題について紹介があったほか、女性の年齢別労働市場参画率が中国、米国、北欧諸国は1960年代のM字型からフラットに移行したのに対し、韓国・日本などの東アジア諸国は依然としてM字型であり、社会的な取り組みの必要性が示唆されました。

本セミナーでは、相互に関連し合う課題についてさまざまな角度から課題が共有されたほか、アジア特有の文化を踏まえた解決策についても提案があり、全体として有意義な議論が展開されました。今後、各タスクフォースは、G20に対する政策提言書(コミュニケ)に盛り込むべきポリシーブリーフ最終案を2019年3月末までにまとめていく予定です。

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