「SDGs達成に向けた人間の安全保障の今日的意義」を議論—シンポジウム開催

2019.03.28

2019年3月15日、シンポジウム「SDGs達成に向けた人間の安全保障の今日的意義」が、JICA市ヶ谷ビルにて開催されました。

人間の安全保障は、1994年に国連開発計画(UNDP)「人間開発報告書」で提示されてから2019年で25周年を迎え、この間さまざまな議論が各所で行われてきました。また「持続可能な開発のための2030アジェンダ(SGDs)」の採択以降は、その理念である「誰一人取り残さない」社会の実現やSDGs達成を脅かすリスクへの対応といった点を考えるうえで、人間の安全保障の考え方・アプローチの有用性が改めて注目されつつあります。

シンポジウム冒頭、戸田隆夫JICA上級審議役があいさつに立ちました。戸田上級審議役は、1994年の人間開発報告書が出る以前に、1941年のF.ルーズベルト大統領の一般教書演説(「四つの自由」)及びこれを受けた「大西洋憲章」において、人間の安全保障の起源があるとしたうえで、グローバリゼーションが不可逆的に進み、自国第一主義が跋扈(ばっこ)している現代社会の状況は、むしろ、「人間の安全保障の原点に立ち返るチャンスでもある」と言明。国際社会との共生なしに生きてはいけない日本として、真に国際社会に貢献する通奏低音となる理念を実体化していくために、国際協力の実務者は何をすべきか、を考えるための知見をこのシンポジウムから得たい、と述べました。

人間の安全保障について語る戸田隆夫JICA上級審議役

続いて高須幸雄国連事務総長特別顧問が講演。高須氏は、ミレニアム開発目標(MDGs)が、人間を中心に包括的な人間の安全保障のコンセプトを反映した2030アジェンダ、SDGsへと発展・拡大した背景に、日本のイニシアチブが果たした役割が大きいことを強調しました。そして、SDGsの理念である「誰一人取り残さない」社会の実現には、すべての人の人間の安全保障(命、生活、尊厳)が確保されることが求められており、「すべての人が人間らしく生きる機会が平等に開かれた社会」を目指すことにあると説明。SDGsの多くの目標をすでに達成しつつある日本にも取り残されている人は存在すると指摘し、「誰がどこにどう取り残されているか」を可視化するために作成した「日本の人間安全保障指標(Human Security Indicator of Japan)」を紹介しました。

講演する高須幸雄国連事務総長特別顧問

メリー・カバジェロ・アンソニー南洋工科大学教授は、グローバリゼーションで国境を超えた活動が増している一方で、国境を超えた問題にもさらされていると指摘しました。カバジェロ氏は東南アジアにおける人間の安全保障上の脅威の一つとして気候変動を挙げ、自然災害により脆弱となった特に女性や子どもが人身取引の被害者になっていると問題の深刻さを訴えました。そのうえで、人間の安全保障上の危機に対するレジリエンスを高めるために、国家だけでなく、様々なプレーヤー(市民社会団体、NGO、コミュニティーなど)の重層的かつ多角的なアプローチも重要性を増していると強調しました。

石川幸子JICA国際協力専門員は、フィリピン・ミンダナオの和平プロセスの現場でJICAがどのように人間の安全保障を実現しようとしてきたかについて発表しました。今回紹介する事例はJICA研究所の研究プロジェクト「東アジアにおける人間の安全保障の実践」に依ると前置きしたうえで、プロジェクトを通じて得られたという3つの教訓について言及。1)援助国と被援助国の平時からの信頼の醸成、2)ステークホルダー間の水平連携と草の根を拾う垂直連携、3)迅速な援助とエンパワーメントの連続性、について具体的なエピソードを交えて紹介しました。なお、このミンダナオの事例について詳しくは、JICA研究所発行の書籍『Human Security and Cross-Border Cooperation in East Asia』に収録されています。

国連、研究者、開発協力の実務者それぞれの立場からの発表を熱心に聞く参加者ら

各発表のあとに行われたパネルディスカッションでは、冒頭、栗栖薫子神戸大学教授が、自身の理論的な見解として、人間開発を下支えするのが人間の安全保障であると発表。また、人間の安全保障についての学界の動向を時系列に紹介したうえで、「私たちが思う以上に、教育・研究の世界で人間の安全保障が定着してきている」と示唆しました。

その後、パネラー間で人間の安全保障の概念が受け入れられない国もある中で、人間の安全保障の観点から「誰一人取り残さない」を実現するための課題、人間の安全保障の付加価値について、活発な意見交換が展開されました。

閉会挨拶では大野泉JICA研究所所長が、「人間の安全保障の確保の実践に役立つような研究をこれからも続けていきたい」と意欲を述べ、シンポジウムを締めくくりました。

右手前から、パネルディスカッションに登壇した高須幸雄国連事務総長特別顧問、メリー・カバジェロ・アンソニー南洋工科大学教授、石川幸子JICA国際協力専門員、栗栖薫子神戸大学教授、モデレーターを務めた室谷龍太郎 JICA企画部国際援助協調企画室副室長

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