TICAD7プレイベント「紛争影響下における『ジェンダーに基づく暴力(GBV)』—ウガンダ難民居住区と日本、それぞれの対応から学び合う」開催

2019.08.27

JICA研究所は2019年8月8日、第7回アフリカ開発会議(TICAD7、8月28から30日に横浜にて開催)のプレイベントとして、「紛争影響下における『ジェンダーに基づく暴力(GBV)』—ウガンダ難民居住区と日本、それぞれの対応から学び合う—」を開催しました。

GBV(Gender Based Violence)被害は、個人の心と体に大きなダメージを与えるだけでなく、その被害を他人に伝え、助けを求めることに対する心理的・社会的障壁が高い問題です。開会のあいさつを述べたJICA研究所の藤田安男副所長は、「平和と開発」をJICA研究所の主要な研究分野の一つに位置付けているとし、2017年4月から研究プロジェクト「紛争とジェンダーに基づく暴力(GBV):被害者の救援要請と回復プロセスにおける援助の役割」を実施中であると紹介。本研究プロジェクトの成果をもとに議論し、被害の実態そのものより、被害者が支援を求める行動面に着目し、必要な支援を明らかにすることが本イベント開催の目的であると述べました。

盛況となった会場の様子。有識者の他、若い世代の関心層も多く集まった

続いて、川口智恵研究員が本研究の概要を発表。ウガンダの難民居住地に暮らす南スーダン難民を対象に、GBVに対する難民たちの認識を探り、GBV被害者の救援要請に向けた行動や、被害者周辺の人々、ホスト・コミュニティーおよび援助機関による支援について調査してきた結果から、川口研究員は、スティグマ(GBV被害者であることから生じる偏見)への恐怖や支援に対する期待の低さが被害者の救援要請を妨げていると指摘しました。

研究について発表した川口智恵研究員

この発表を受け、武藤亜子主任研究員をモデレーターに、本セミナーに登壇した国連難民高等弁務官(UNHCR)駐日事務所の小坂順一郎氏、国連女性機関(UN Women)ウガンダのユスラ・ナグジャ氏、ウガンダ国立マケレレ大学付属Refugee Law Projectの責任者であるクリス・ドラン氏、社会福祉士として複数の女性支援団体に所属する石本宗子氏の4人が、GBV支援の現状や課題を各現場からの視点で述べました。

UNHCR駐日事務所の小坂氏は、自身がウガンダのビディビディ難民移住区に赴任していた2016年9月から12月までに関わったUNHCRの緊急対応、SGBV(Sexual and Gender-Based Violence )専門の人員派遣、国境や一時滞在所などホットスポットでの安全監査、SGBVの事例管理に関する標準業務手続の確立などを発表しました。また、マルチセクター対応として、主要5セクター(医療・保健、社会心理的支援、安全確保、法的支援・司法手続きへのアクセス、社会・経済的統合)によるケースマネジメント体制、およびSGBVワーキンググループを通じた主要5セクター以外におけるジェンダー配慮の必要性についても言及しました。

(右から)社会福祉士の石本宗子氏、Refugee Law Projectのクリス・ドラン氏、UN Womenウガンダのユスラ・ナグジャ氏、UNHCR駐日事務所の小坂順一郎氏

UN Womenウガンダのナグジャ氏は、GBV支援のプロセスに女性参加を促すため、ウガンダにおける南スーダンからの難民を中心に、多様なキャパシティ・ビルディングを行っていると報告。GBV支援の必要性が認識されつつあるものの、支援に対する資金が不足しているため、被害によるトラウマへの支援は優先順位が低いままとなっていると問題提起し、ジェンダー主流化、女性の社会的地位の向上、他のセクター(保健、教育、栄養、環境、平和構築)との連携を通じて包括的、かつ長期的に支援していく必要があると訴えました。

Refugee Law Projectのドラン氏は、男性が被害を受けた場合の特有のスティグマについて言及。GBVが男性のセクシュアリティーに多大な影響を与えることも多いため、被害を報告することもできない、また男性が性的被害に合うという社会的な認知がないため、そもそも支援がないなど、男性ゆえの障壁を説明しました。そのうえで、まずはその被害についての報告を促すこと、そして女性と男性双方に対するGBVを廃絶するために、すべての人々を巻き込んでいくというプロセスの必要性を訴えました。

社会福祉士の石本氏は、東日本大震災の被災地で起こったGBVの事例を報告しました。この背景には日本にも根強くはびこる暴力を容認する意識・考え方があるとして、GBVは決して対岸の火事ではないことを印象づけました。

また、コメンテーターにはウガンダ国立マケレレ大学School of Women and Gender Studies講師のロナルド・セバ氏と認定NPO法人‎難民を助ける会の福井美穂氏が登壇。セバ氏は、ウガンダが受け入れている1.4百万人という膨大な難民すべてを支援していく困難さ、難民支援が数年にわたる場合の継続的な支援の重要性などを指摘しました。加えて、コミュニティーにおける医学的介入などのボトムアップ支援、声をあげられない被害者の存在などに配慮しながら、真のニーズを掘り起こしていくことが重要だと述べました。続いて福井氏が、本セミナーにおける各発表の要点を整理しつつ、ウガンダの場合、一時的な保護を目的とする「難民キャンプ」ではなく、「難民居住地」という形をとっており、難民支援に関するホスト国の影響が大きいことに言及しました。

マケレレ大学のロナルド・セバ氏(左)と難民を助ける会の福井美穂氏

最後に会場からも積極的な質疑応答があり、難民居住地におけるGBVへの関心の高さがうかがわれました。

なお、川口研究員、ドラン氏、セバ氏および福井氏は、長崎大学で8月10から11日に開催された国際政治学会(International Political Science Association:IPSA)にて、本プロジェクトの研究成果発表パネル「GBVを乗り越える(Overcoming Gender Based Violence)」を実施し、出席研究者から多数の質問を受けました。

関連動画

インタビュー: 紛争下におけるGBV-男性被害者支援における課題とは(Refugee Law Project クリス・ドラン氏)

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