ジェンダー平等な世界の実現に向けて—世界銀行との共催セミナー開催

2020.02.14

2020年2月3日、世界銀行グループとJICA研究所の共催セミナー「ジェンダー平等な世界の実現に向けて:世界銀行グループ、JICAの取り組み」がJICA市ヶ谷ビルで開催されました。

基調講演に登壇した世界銀行ジェンダーグループのカレン・グロウン・シニアディレクターは、「ジェンダー平等は女性のためだけの狭い問題ではなく、社会全体に関わる問題。過去20年の間に、母子保健といった分野では大きな前進が見られるが、依然としてジェンダー格差は残り、世界経済にも大きな損失が生じている」と発言。世界銀行グループのジェンダー戦略として、①保健・教育分野への投資を通じて人的資本を強化すること、②より良い雇用に向けた課題を解決すること、③女性の資産所有への障壁をなくすこと、④女性の発言力を高め、社会規範を変革するために男性を巻き込むことを紹介し、世界の現況と課題を解説しました。

基調講演に登壇した世界銀行ジェンダーグループのカレン・グロウン・シニアディレクター

また、ジェンダー格差は1995年の第4回世界女性会議で採択された「北京行動要領」で期待された進展を見せていないとし、「これまで多くの機関が取り入れてきた“ジェンダー主流化”のアプローチではなく、そもそもの課題が何かを見極め、解決していくアプローチが必要ではないか」と指摘。そこで世界銀行では”具体的に解消すべきジェンダー間の格差”に重点を置き、安全に移動できる公共交通整備を通した女性の雇用促進や、金融デジタル化などによる女性の起業促進や金融サービスへのアクセス向上、ジェンダーに基づく暴力やジェンダー差別対策のための規範づくりによる女性の発言力向上などを支援していることを説明しました。最後に、「問題解決型、そして人間中心の行動科学的なアプローチにより、社会環境はもちろん、人々が持つ規範や無意識の先入観を変革していくことがジェンダー平等につながる。今後もパートナーと連携し、学び合いながら進めていきたい」と締めくくりました。

これを受け、JICAジェンダー平等・貧困削減推進室の亀井温子室長と、立命館アジア太平洋大学の山形辰史教授がコメントしました。

亀井室長は、「このままのペースではジェンダー不平等の解消に200年以上かかるといったデータもあり、まだまだ残された課題。持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)達成に向けて取り組みを加速しなければならない」とコメント。加えて、JICAの取り組みとして、ジェンダーの視点に立った事業の比率を金額ベースで全事業の40%以上に目標設定していると説明。取り組みの具体例として、世界銀行との協調融資によるエチオピアの女性起業家への支援や、女性のニーズを踏まえたインドのデリーメトロ建設事業、東南アジアでの人身取引対策への取り組みを紹介しました。

JICAジェンダー平等・貧困削減推進室の亀井温子室長(左)と立命館アジア太平洋大学の山形辰史教授

外務省による「女性のエンパワーメント推進にかかるODAの評価」に携わる山形教授は、「貧困削減はすでに解決した課題という声が一部にあるが、ジェンダーの平等と開発がテーマの『世界開発報告2012』にもあるように、ジェンダーを含めた格差は依然解決されていない。カイゼンや母子手帳のような日本発の効果的・展開可能なプログラムをジェンダー分野でも生み出す必要がある」とコメントしました。

続くパネルディスカッションでは、JICA研究所の大野泉研究所長がモデレーターを務め、「日本はジェンダーギャップ指数が低迷している中、どんな役割を果たせるか」といった質問を投げかけました。亀井室長は、「SDGs達成にはジェンダー格差は必ず解決しなければならない課題。ジェンダー規範が厳しいからこそ、例えば電車の女性専用車両といった日本ならではの経験や教訓を通じ貢献できることも多い」と述べました。また、日本へのアドバイスを求められたグロウン・シニアディレクターは、「ジェンダー主流化は大事だが、案件数や金額などのプロジェクト立案プロセスに基づいた指標では、それが最終的に女性のエンパワメントにつながったかどうか分からない」と課題を指摘し、そこで世界銀行では成果を測れる指標に基づいた支援の枠組みを導入していることを紹介しました。

JICA研究所の大野泉研究所長がモデレーターを務めたパネルディスカッション

会場からもさまざまな視点から意見・質問が寄せられ、活発な議論が行われました。

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