研究プロジェクト「持続的な平和に向けた国際協力の再検討:状況適応型の平和構築とは何か」第3回執筆者会合を開催

2020.06.20

2020年5月23日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の研究プロジェクト「持続的な平和に向けた国際協力の再検討:状況適応型の平和構築とは何か」の第3回執筆者会合がテレビ会議形式で開かれ、シリア、パレスチナ、モザンビーク、フィリピンのバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域、コロンビアの事例の執筆者が現地調査の成果を発表しました。また、南スーダンでの中国の平和構築の取り組みに関する事例研究や、持続的平和に関する公共政策の展望を紹介する発表も行われました。

アフリカ、アジア、中南米、中東地域の紛争地における平和構築の取り組みについて各研究者が発表

JICA緒方研究所の武藤亜子主任研究員は、シリアにおける今後の平和構築活動の重要性と課題を分析し、「シリアの未来のための国民アジェンダ(National Agenda for the Future of Syria:NAFS)」が重要な役割を果たすことを強調。その理由として、シリア人が協働し、国の再建の源となるエビデンスに基づいた文書を作成するためのプラットフォームとなること、さらに国連西アジア経済社会委員会との強力な関係を構築できることを挙げました。武藤主任研究員は、シリアは長きにわたる紛争で問題が複雑化し、NAFSが掲げる目標を迅速に達成するのは相当に難しいものの、NAFSの状況適応型アプローチがシリアでの効果的な対処方法につながることで、今後、平和構築に携わる関係者に貴重な気づきを提供すると論じました。

防衛大学の立山良司名誉教授は、ヨルダン川西岸におけるヘブロン暫定国際監視団(Temporary International Presence in Hebron:TIPH)の事例研究を発表し、パレスチナのイスラエルとの構造的に非対称な政治状況下における、平和維持および平和構築の役割に焦点を当てました。TIPHの平和構築アプローチは公平性の原則と国際人道法に基づいており、その活動はヘブロンの状況に「ほとんど影響がない」「まったく影響がない」と評価されていました。しかし、TIPH撤退後の2019年2~12月までの間、負傷したパレスチナ人の数は2018年に比べ4.5倍に増え、TIPHがパレスチナにある程度の安全をもたらしていたことが分かりました。立山名誉教授は、TIPHは「監視・報告するだけ」という任務にもかかわらず、どのようにパレスチナを保護し、西岸地域の平和に貢献したかを分析しました。

JICA緒方研究所のルイ・サライヴァ研究員は、モザンビークでの2013~2019年に生じた小規模な紛争の再発と、2017年以降のカボ・デルガード州でのイスラム勢力の武装蜂起による平和構築の課題の複雑化について発表しました。サライヴァ研究員は、聖エジディオ共同体やアガ・カーン開発ネットワークといった国際NGOの平和構築活動を挙げ、これらの組織が現地の団体やモザンビーク政府、日本などの援助国と協力し、同国の平和維持に重要な役割を果たしていることを説明。情勢の複雑性が増す中、こういった組織の適応的な性質や文脈化された手法は、より効果的・長期的な平和構築の達成を可能にしていると結論づけました。

JICAの谷口美代子国際協力専門員(平和構築)は、フィリピンのバンサモロ・ムスリム・ミンダナオ自治地域の事例における国際協力と状況適応型平和構築について発表。平和構築プロセスにおける主要な国際的アクターの役割を分析し、フィリピン政府とモロ民族解放戦線(MNLF)、モロ・イスラム解放戦線(MILF)との間でそれぞれ調印された和平合意以降、JICAの長期的なコミットメントと協力がこの地域の平和や安定に貢献したことを示しました。また、現地の多様なステークホルダーとの信頼と一体感を醸成しながら、紛争当事者の内部者および外部者による調停を通じて、それらの間の水平的・垂直的関係を強化することの重要性を指摘しました。そして、バンサモロの文脈における持続的平和構築の決定要因は、政治指導者の政治的資本、(非対称的な権力関係を是正するために)国際社会のあらゆる支援・支持、市民社会の和平プロセスへの関与などであると結論付けました。

パリ東大学の博士課程に在籍するリナ・ペナゴス氏は、コロンビア政府とコロンビア革命軍との間で2016年に調印された和平合意の推進において、状況適応型平和構築の重要な事例について発表しました。ペナゴス氏は、都市の再編プロセスのほか、政府機関や地域住民、国際協力アクターが元戦闘員の市民生活への復帰を支援する「訓練・再統合領域空間(Territorial Training and Reincorporation Spaces:ETCR)」にも重点を置いて分析。政治的緊張の持続や予算の制約、元戦闘員の期待とのギャップから生じる課題はあるものの、再統合およびノーマライゼーションに関する大統領府主導の国家再編政策のもと、ローカルかつハイブリッドな状況適応型平和構築の実践が重要と強調しました。

立命館大学の廣野美和准教授は、南スーダンにおける中国の平和構築の取り組みを分析した事例研究について紹介しました。中国のアプローチは南スーダン政府から歓迎され、自由主義の平和構築アプローチとは別の選択肢を提供しています。南スーダンのアクターを主体にし、不介入原則に基づく中国のアプローチは、実践していく中で地元の状況に適応していく可能性があります。それにもかかわらず、実際にはその適応水準は比較的限定的であり、形式的に留まってきたと付け加えました。

東洋学園大学の川口智恵専任講師は、公共政策研究の視点から平和構築の変革についての概念分析を紹介し、3つの主な政策決定レベル(多国間枠組み、派遣/支援国、受入れ国)での平和構築活動の重要な特徴、可能性、限界を明らかにしました。そして、平和構築政策のプロセスにおいてアクター間の相互作用をさらに考慮することで、複雑で繰り返し起こる長期的紛争という現代の事例において、代替的な平和構築アプローチの可能性がさらに明らかになると論じました。

同研究プロジェクトのアドバイザーを務めるノルウェー国際問題研究所のセドリック・デ・コニング上級研究員、大阪大学の松野明久教授、防衛大学の武田康裕教授はフィードバックを行い、研究プロジェクトに大きな前進があったと評価しました。また、JICA緒方研究所の研究プロジェクトが、平和構築や開発の分野で研究者と実務者のさらなる連携を強化する可能性も強調しました。

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