オール・ジャパンでフィリピン・ミンダナオの平和を目指して—プロジェクト・ヒストリー発刊記念ウェビナー開催

2021.03.01

2021年2月10日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は「フィリピン・ミンダナオ平和と開発ウェビナー プロジェクト・ヒストリー『フィリピン・ミンダナオ平和と開発』シンポジウム=オール・ジャパンで紡ぐ和平への道筋=」を開催しました。同ウェビナーシリーズの第1回として、書籍「プロジェクト・ヒストリー」シリーズ第25弾『フィリピン・ミンダナオ平和と開発—信頼がつなぐ和平の道程』の発刊を記念し、日本とJICAのミンダナオでの取り組みをまとめた平和構築支援について議論しました。

開会にあたり、JICA緒方研究所の牧野耕司副所長が、「さまざまな立場からミンダナオ和平に関わる方々にお話しいただき、オール・ジャパンとしての和平支援のあり方を考える契機としたい」とあいさつしました。

冒頭、本書の著者であり、ミンダナオ国際監視団(International Monitoring Team: IMT)やJICAのプロジェクトリーダーとしてミンダナオに約5年赴任したJICAの落合直之職員がミンダナオ紛争を概観。民族自決、イスラムとしての正義、先祖伝来の土地を取り戻すことを目的に50年以上続いてきたことを説明しながら、ムスリムとキリスト教徒の対立だけではなく、封建社会や部族紛争などさまざまな側面があることを強調しました。また、日本は2006年から本格的にミンダナオ支援を展開しており、和平交渉をモニタリングする「外交」、IMTに人材を派遣する「治安」、JICAやNGOが参画した「開発」の各分野を組み合わせた取り組みで貢献していると述べました。

さまざまな立場からミンダナオ支援に携わってきたJICAの落合直之職員

次に、ミンダナオの子どもたちへの奨学金支援や本の読み聞かせなどの活動を約20年続けているNGO、ミンダナオ子ども図書館の松居友エグゼクティブ・ディレクターが、日本の草の根・人間の安全保障無償資金協力を活用して北コタバト州ブアランの小学校を再建し、今ではイスラム教徒、キリスト教徒、先住民の子どもたち約300人が通っていることを紹介。「ミンダナオでは、もともとは宗教や部族が違っても人々が仲良く暮らしていた。子どもたちは、宗教が違っても『僕たち家族だもん』と言ってくれる。そんな平和な本来のミンダナオを復活させたい」と語りました。

ミンダナオ子ども図書館の松居友エグゼクティブ・ディレクターが活動を紹介

JICAの石川幸子国際協力専門員は、JICAのミンダナオ和平支援を「信頼」「外交と開発のリンク」「和平交渉の助っ人」をキーワードに分析。「長年にわたる支援を通じて日本はフィリピンとの信頼を醸成し、2006年に日本がIMTに参加したことで外交と開発のリンクができ、2008年の和平プロセス中断時も、各国が支援の手を止める中、故緒方貞子JICA理事長(当時)の強い意志で支援を継続したことで信頼が増幅。また、和平プロセスのプラットフォーム喪失を回避するため、市民として何ができるか議論する連続セミナーをJICAがマレーシアの大学と共に開催するなど、トップからボトムまで縦のコミュニケーションを生む支援により、JICAは和平交渉の助っ人となり得た」と説明しました。

JICAの石川幸子国際協力専門員はJICAのミンダナオ和平支援を分析

外務省の松尾大道南東アジア第二課長補佐は、日本による約20年にわたるミンダナオ和平支援について説明。コミュニティー開発や人材育成などの支援を集中的に展開する包括的な支援「Japan Bangsamoro Initiatives for Reconstruction and Development(J-BIRD)」のほか、日本はフィリピン政府とモロ・イスラム解放戦線(MILF)の間をつなぐ役割を果たし、2011年のベニグノ・アキノ3世フィリピン大統領とMILFのアル・ハジ・ムラド中央委員会議長の成田でのトップ会談を仲介したことも紹介。「今後は、バンサモロ暫定自治政府の行政能力向上、和平の恩恵を住民に届けるための社会経済開発、武装解除に注力していく」と述べました。

外務省の松尾大道南東アジア第二課長補佐は日本のミンダナオ和平支援について説明

キヤノングローバル戦略研究所の本多倫彬主任研究員は、「国際社会がアフガニスタンといった紛争地に導入したアプローチとは異なる平和構築アプローチを日本はミンダナオで展開してきた。だからこそ、ここまで成果を出したという点で非常にユニーク。脈々と続けてきたODA、JICAを中心とする平和構築の取り組みがミンダナオ和平として花開いたと感じた。そのまま他の紛争地に適用することはできないし、するべきでないが、今後はこの平和構築モデルを他のケースでどう生かしていくかという視点が必要ではないか」と問題提起しました。

キヤノングローバル戦略研究所の本多倫彬主任研究員は日本ならではの平和構築モデルと指摘

この問いを受けて、JICA緒方研究所の増古恵都子企画課長がモデレーターを務めたパネルディスカッションでは、紛争当事者との信頼関係の構築、地方議員・学者・宗教的リーダーといったトップとボトムの人々をつなぐ中間的なアクターの動員、先入観を持たずにゼロから現地の声に向き合う姿勢、紛争当事者に「次の世代に紛争を持ち越さない」という想いを持ってもらうことが重要になるなど、多様なアイデアが共有されました。

最後に、落合職員が「明治維新以降、国が発展してきた経験を伝えられるのも日本の役割。私は2021年4月にバンサモロ自治政府の首相アドバイザーとして赴任する。これからもみなさんとミンダナオの平和を探求していきたい」と応じ、シンポジウムを締めくくりました。

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