カンボジアの金利上限規制委員会でマイクロファイナンス機関の金利上限規制に対して政策提言—相場研究員ら

2021.04.05

2021年2月10日、カンボジアで開催された金利上限規制委員会の会議に、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の相場大樹研究員とソワンルン・サムレト客員研究員(埼玉大学准教授)がオンラインで参加しました。

カンボジアで開催された金利上限規制委員会の会議

この金利上限規制委員会は、同国の中央銀行であるカンボジア国立銀行(National Bank of Cambodia: NBC)や経済金融省などからオーン・ポーンモニロット副首相も含めた関係省庁が参加し、カンボジアの金融セクターの貸出金利上限規制に関する政策諮問を行う場です。今回の会議では、NBC、経済金融省や教育省などの関連省庁、カンボジアマイクロファイナンス協会から代表らが参加しました。

NBCのネブ・チャンタナ副総裁による開会のあいさつに続き、相場研究員とサムレト客員研究員がそれぞれ発表しました。両研究員は、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「カンボジアにおける金融包摂促進のための実証研究」において、2017年4月にマイクロファイナンス機関に対して施行された年利18%の金利上限規制の金融包摂への影響を研究してきました。その成果を踏まえ、現行の金利上限規制について政策提言を行ったものです。

まずサムレト客員研究員は、2019年にJICA緒方研究所が行った1000世帯のカンボジアの家計に対するインタビュー調査に基づいた家計への影響の分析結果として、現在の金利規制の水準は規制前の平均的な貧困層向け貸し出しの水準に比べて低いこと、金融機関が金利を下げる代わりに手数料を従来より上げていること、金融リテラシーが規制後の負債の収入に対する比率と相関していることなどを発表しました。次に相場研究員は、カンボジアの信用情報機関が持つ2016~2019年の延べ700万件にのぼる同国の全金融機関の顧客情報を用いた分析結果として、金利規制後に貧困層向けの貸し出しが減少していること、さらに貧困層向け貸し出しの一件当たりの金額が増加していることなどを説明しました。

これらの調査結果を踏まえ、相場研究員は現在の金利上限規制に対する政策提言として、「現行の金利規制では金額が小さい貸し出しが特に困難になっており、貧困層向け貸し出しが減少しているため、規制の結果を踏まえて柔軟に金利をコントロールするか、貧困層貸し出しへの影響を小さくする措置をとる必要がある。そのために、より一層マイクロファイナンス機関の運営の透明性を高めなくてはならない。手数料を課す金融機関が増えていることやインフォーマル金融の借り入れ割合が増えていることなどから、過重債務問題を防止するため、借り手の金融リテラシーの改善が重要」と述べました。

オンラインで参加したJICA緒方貞子平和開発研究所の相場大樹研究員が政策提言

これに対してカンボジア側から、「NBCは過去数年にわたって教育省と連携し、学校カリキュラムに金融教育を導入するといった学生の金融リテラシーの向上や、女性省との連携で女性の金融リテラシーの向上を図るなど、金融リテラシーの向上に向けた施策を継続的に行っており、今後も活動を続けて改善を目指す」といった意見が上がりました。

今回の分析結果は、埼玉大学東アジアSD研究センターのディスカッションペーパーとして発表されています。また、政策提言については、今後JICA緒方研究所のポリシーノートとして発表される予定です。

JICA緒方研究所は、今後も金利上限規制の影響をはじめとして、金融リテラシーや過重債務問題といったカンボジアのマイクロファイナンスセクターが抱える課題解決に向けた研究を続け、金利規制の影響についてはワーキングペーパーなどを通して研究結果を随時更新していきます。

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