国際協力において信頼をどう構築していくか?第2回フィリピン・ミンダナオ平和と開発ウェビナー開催

2021.03.08

2021年2月24日、JICA緒方貞子平和開発研究所とJICA東南アジア・大洋州部は、第2回フィリピン・ミンダナオ平和と開発ウェビナー「JICAによるフィリピン・ミンダナオ和平支援の取り組み〜国際協力における信頼構築とは〜」を開催しました。

冒頭、JICA東南アジア・大洋州部東南アジア第五課の渡辺大介課長が「日本とJICAが30年近く平和構築支援を続けてきたフィリピン・ミンダナオが、自治政府発足という歴史的瞬間を迎えようとしている。ミンダナオ支援に最前線で関わってきた人たちの生の声を届けることで、より関心を持ってもらいたい」と開会の辞を述べました。

まず、JICA同部の宮﨑稔樹職員が、「ミンダナオ紛争はイスラム教徒とキリスト教徒の争いという図式で語られがちだが、実はそう単純ではなく、ステークホルダーが多様で複雑だからこそ紛争解決は簡単ではない」とし、ミンダナオ紛争の歴史や、リド(現地語)と呼ばれる氏族間の抗争も含めた複雑なステークホルダーについても相関図を示しながら説明しました。

JICA東南アジア・大洋州部の宮﨑稔樹職員はミンダナオ紛争の概要を説明

次いで、自身もミンダナオで多数の平和構築支援に携わってきたJICAの谷口美代子国際協力専門員が、2021年2月に完成した報告書「ミンダナオ支援の包括的レビュー」に沿ってJICAの30年にわたる協力の歩みを紹介。同報告書では、開発、治安維持(主に停戦監視)、外交を包括するオール・ジャパンによるアプローチがミンダナオ支援の特徴とした上で、和平プロセスと支援方針の変化を踏まえた4フェーズごとのレビューとともに、ガバナンス強化、経済開発、コミュニティー開発の3つの分野別でもレビューしています。谷口専門員は「JICAのミンダナオ支援は、継続的な事業実施によって培われた人的ネットワークを生かし、多様な関係者の信頼醸成によって平和と開発に貢献した」とし、日本・日本人がミンダナオ和平を支援する意義について説明しました。

JICAの谷口美代子国際協力専門員は報告書をもとにJICAの約30年の支援を紹介

ミンダナオのコタバトにあるプロジェクトオフィスから参加したJICAフィリピン事務所の海老澤陽次長は、2019年に成立したバンサモロ暫定自治政府(Bangsamoro Transition Authority: BTA)が2022年に正式な自治政府に移行するのを踏まえ、現在実施しているJICAの協力について説明。BTAの組織設計のほか、政府運営や行政に不慣れな職員の能力向上や予算策定プロセス支援などのガバナンス・行政運営能力の強化、連結性を向上させる道路ネットワーク整備や主要産業である農業に携わる零細農家向けの低金利ローンの提供などの生活改善に資する社会経済開発事業、モロ・イスラム解放戦線(MILF)の兵士を含むコミュニティーへの営農支援などの正常化(兵士の退役・武装解除)と社会統合プロセスへ資する支援を紹介しました。

JICAフィリピン事務所の海老澤陽次長は現在実施しているJICAの事業を説明

その後のパネルディスカッションでは、長期にわたりミンダナオ支援に関わり、書籍プロジェクト・ヒストリー『フィリピン・ミンダナオ平和と開発—信頼がつなぐ和平の道程』を執筆したJICAの落合直之職員も加わり、「国際協力における信頼の構築」をテーマにさまざまな意見を交わしました。

パネルディスカッションに参加したJICAの落合直之職員

谷口専門員は「和平プロセスはまだ道半ばで、暫定自治政府は現在、民族自決権と正義のもとに分断の歴史を乗り越え、『バンサモロ』という新たなアイデンティティーと政治共同体を創出する歴史的な挑戦をしているところ。国際社会はミンダナオだけでなく地域全体の平和と安定のためにも支援を継続し、自治政府の基盤づくりに貢献することが必要。外部者としての中立性を担保しながら、自分の知識や理解に謙虚に、無自覚に政治に介入しないために現地の政治実態、また歴史や文化を理解し、公共・公益のために尽力する人々の一連の営為に対して敬意を払うこと、さらには必要な技術・知識・価値をタイムリーに提供することが欠かせない」、海老澤次長は「他地域とミンダナオでの平和構築支援の違いを挙げると、ミンダナオでは日本やJICAへの信頼が本当に厚い。彼らのニーズにできるだけ速やかに応え、成果を出すことで信頼が得られてきた。相手に寄りそうことが大事」、落合職員は「1996年にフィリピン政府とモロ民族解放戦線(MNLF)との間で和平合意が結ばれたのちに、出張で訪れたミンダナオの農村で畑を耕す男性と出会ったが、彼の背中には自動小銃があった。『武器から鍬へ』と言うが、そう単純ではない。もし自分が彼だったら、と想像した。他人事を自分事と考えることが、信頼の構築への出発点になる」と語りました。

ウェビナー参加者からの多様な質問への活発な議論も行われ、最後に司会を務めたJICA東南アジア・大洋州部の竹田幸子次長が「JICAは引き続きフィリピンの関係者それぞれの想いに寄り添いながら力を尽くしていく」と述べ、ウェビナーを締めくくりました。

関連情報

谷口専門員は、JICA緒方貞子平和開発研究所の研究プロジェクト「持続的な平和に向けた国際協力の再検討:状況適応型の平和構築とは何か」の研究分担者として、日本型・状況適応型平和構築の有効性、状況適応型・和平調停、包括的治安ガバナンスの研究に取り組んでいます。

また、谷口専門員による著書『平和構築を支援する~ミンダナオ紛争と和平への道』は、リベラル平和構築論の限界を指摘した上でミンダナオの分離独立紛争とその影に隠れた実態を解明し、先史時代からの歴史的経緯を踏まえつつ、現地社会の視点からの平和構築の在り方を提起し、第32回「アジア・太平洋賞特別賞」(主催・毎日新聞社、一般財団法人アジア調査会など)および第24回「国際開発研究 大来賞」(主催・一般財団法人国際開発機構)、2020年度国際開発学会奨励賞を受賞しました。

書籍

学術賞

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