現代の武力紛争における平和構築の形態とは?武藤上席研究員とサライヴァ研究員が世界政治学会(IPSA)国際大会で議論

2021.10.12

2021年7月10日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の武藤亜子上席研究員とルイ・サライヴァ研究員が、世界政治学会(International Political Science Association: IPSA)第26回国際大会でのパネルディスカッション「Contextualizing International Cooperation for Sustaining Peace in Complex, Protracted, and Recurring Armed Conflicts」に、オンラインで参加しました。同パネルディスカッションは大阪大学の松野明久教授と武藤上席研究員が共同座長を務めたものです。武藤上席研究員とサライヴァ研究員は、多様なケーススタディーを分析しながら、現代の武力紛争における国際的な平和構築の形態について議論しました。

サライヴァ研究員は、IPSAの会議録に掲載された論文「Contextualizing Peacebuilding in Mozambique’s Resurgence of Conflict (2013-2019): Direct Dialogue and DDR in an Increasingly Complex Environment」について発表。まず、独立戦争(1964~1974年)、モザンビーク解放戦線(FRELIMO)とモザンビーク民族抵抗運動(RENAMO)による内戦(1977~1992年)、そしてさまざまなアクターによる和平交渉や平和構築の取り組みにもかかわらず近年再発した内戦(2013~2019年)など、モザンビークの紛争の歴史を概説しました。また、同国での調停の事例をいくつか挙げた上で、直接対話を組み合わせた状況適応型の調停アプローチのほうが、通常の調停アプローチ(プロセスのファシリテーションを伴わない国内調停やハイレベルでの国際調停など)よりも好ましい結果をもたらしたこと、また、調停者の状況適応型の考え方が調停プロセスを成功に導いたことを説明しました。サライヴァ研究員は、「状況適応型アプローチは、近年、調停プロセスにおいて主流になりつつあり、2019年に調印された新たな和平合意や新たな武装解除、動員解除および再統合(Disarmament, Demobilisation, Rehabilitation: DDR)プログラムへの道を開いた。将来的な平和構築プログラムの実行に向けても、状況適応型アプローチは有効だろう」と述べました。

一歩ずつ平和な国づくりが進むモザンビークの子どもたち(写真:JICA)

次に、武藤上席研究員もIPSAの会議録に掲載された論文「Implications and Challenges of Externally Driven and Locally Led Peacebuilding Approaches in a Complex Context: A Case Study of the Syrian Conflict」について発表しました。まず、シリア内戦の複雑さは、政府や対立する複数の勢力に加え、それぞれの側を支持する近隣諸国や国連安全保障理事会の常任理事国といった外部からの干渉によって特徴づけられていると論じました。そして、こうした複雑な内戦の状況に適応し得る地元主導のアプローチの事例として、①国連の第3代特使によって設立され、シリアの市民が和平プロセスに直接意見を提供するための政治的手段として機能した「Civil Society Support Room(CSSR)」と、②国連西アジア経済社会委員会(UNESCWA)によって設立され、内戦終結後のシリア主導による平和構築アプローチの一例となり得る「National Agenda for the Future of Syria(NAFS)」を紹介しました。武藤上席研究員は市民参画のためのこうした枠組みの重要性を強調しつつ、「シリアのケースは外部からの介入の影響を排除することがほぼ不可能だったため、10年を超える内戦を経てもいまだに状況適応型のアプローチが主流になることができていない」と述べました。

シリアの首都ダマスカス。地元主導の平和構築アプローチが求められている

続いて、JICAの谷口美代子国際協力専門員が論文「Examining an Alternative Approach of Peacebuilding in Mindanao, the Philippines」について、防衛大学校の立山良司名誉教授が論文「Temporary International Presence in Hebron (TIPH): Impartiality and Adaptive Peace Building Approach in Structural Asymmetry」について、復旦大学博士課程在籍中のゴードン・コジョ・ニャメ・メンサ・ヤウソン氏が「Institutional Universality, Diversity of Cultures and People of Africa: An Evolutionary Examination of the Design of the African Peace and Security Architecture」について、それぞれ発表しました。

パネル討議者からは発表論文に対してコメントが寄せられ、上智大学の中内政貴准教授は、平和への取り組みにおいて、当事者レベル、地域レベル、国際レベルのアクター間の関与のバランスを図り維持するプロセスに、当事者が真っ向から対立するような現地の文脈における複雑性について言及しました。そして、サライヴァ研究員が発表したモザンビークのケーススタディーにコメントし、20年間続いた平和の崩壊の理由として考えられるものや、モザンビーク政府が新たな権力の分担と和平プロセスを受け入れた原動力について問題提起をしました。また、武藤上席研究員が発表したシリアのケーススタディーに関して、さまざまなステークホルダーの動機や、シリアの特殊な状況下で、決定論的な既存のアプローチとあわせて状況適応型のアプローチを和平活動に適用する複雑さや矛盾を指摘しました。加えてフィリピン・ミンダナオ、ヘブロン、アフリカ連合のケーススタディーについても、各研究の独自の複雑性に関する問題を提起しました。

ジェトロ・アジア経済研究所(IDE-JETRO)の今井宏平研究員も、状況適応型の平和構築アプローチの独自性についてコメントし、その一般的な原則や、さまざまな紛争への適用について、肯定的に評価しつつ、批判的観点から疑問を投げかけました。また、サライヴァ研究員によるモザンビークのケーススタディーにおける状況適応型の調停と、制度的な学習の意義や適用との関係について論じました。武藤上席研究員によるシリアのケーススタディーに対しては、現在も続く内戦の渦中における平和構築の取り組みの有効性に関して質問しました。さらに、ヘブロン、フィリピン・ミンダナオ、アフリカ連合のケーススタディーに状況適応型平和構築アプローチを適用する場合の概念上の明確性と分野横断的な適用の可能性と問題点についても問題を提起しました。

このパネルディスカッションで発表された研究結果は、文脈に適応した平和構築アプローチに対する理解を深め、平和の持続に関する国連決議や持続可能な開発のための2030アジェンダの履行に役立てることを目的としています。

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