外国人と日本人が共に活躍できる社会を目指して—シンポジウムで外国人受け入れに関する研究結果を基に議論

2022.03.30

2022年2月3日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、「2030/40年の外国人との共生社会の実現に向けて~将来の外国人の受け入れに関するシミュレーション(需給推計)と共生の在り方(課題と提言)~」と題したシンポジウムをオンラインで開催し、約500人が参加しました。

10年後、20年後の日本が直面する大きな課題とは?

冒頭、JICAの北岡伸一理事長が開会のあいさつに立ち、「日本では人口減少が進み、外国人労働者の受け入れの促進が必要。本日紹介する分析結果では、日本が経済成長を続けるためには、20年後に現在の4倍(約674万人)もの外国人動労者が必要と推計された。これまでデータに基づいたこのような研究が行われてこなかったことも驚きだ。将来は外国人労働者の獲得競争が激化する。日本はより強い危機感を持って、中長期的な視点に立ったプロアクティブな政策が必要だ」と述べました。

日本での外国人労働者不足を推計した研究を紹介したJICAの北岡伸一理事長

続いて、2030年、2040年時点の日本側の外国人労働需要と送り出し国側の供給ポテンシャルを推計した調査研究結果について、分析を担当した株式会社価値総合研究所の松岡広氏が「たとえ自動化などの設備投資を進めても、日本は今後、目標のGDPを達成するために必要な外国人労働者を確保できなくなる。具体的には、需要に対して2030年に63万人、2040年に42万人が不足すると予測される」と報告しました。また、株式会社日本経済研究所の亀山卓二氏は将来的な課題として、「基本的人権・社会参画、就労支援、生活支援の3つの面で制度や支援体制を充実させるとともに、その施策が実効的に機能するよう各自治体の特性に応じた仕組みを構築する必要がある」とし、日本の20自治体での事例調査から得た示唆を共有しました。その上で、JICAの宍戸健一上級審議役が、この研究結果から見えた8つの課題と「日本人も外国人も夢を持って、安心して活躍できる豊かな共生社会の実現」という目指すべき方向性、そのためにJICAが取り組むべきアクションを示しました。

【発表資料】

さらに、この調査検討ワーキンググループに参加した2人の委員がコメント。国立社会保障・人口問題研究所の是川夕国際関係部長は、「これまで日本では外国人労働者を受け入れる/受け入れないという二分法的議論が多かったところ、この研究では外国人労働者の需給バランスを具体的な数値で示した点に意義がある。IMFのシミュレーション結果とも整合的であり、現時点で最も信頼性の高い推計と言える。日本の急激な少子高齢化に対応するには、生産性の上昇や高齢者・女性の労働参加率の上昇と共に、外国人労働者の受け入れも重要な政策であり、これらの政策の組み合わせが必要と示したことが重要」と評価しました。また、公益財団法人日本国際交流センターの毛受敏浩理事は、「日本では、これまで外国人をどのように受け入れるかが検討されてきたが、今後はどうすれば日本が選ばれる国になるかという視点を持たなければならない。その点、JICAは開発途上国で活動してきたゆえに、外からの視点があり、客観的な議論をすべきだと示唆した点に大きな意味がある。また、地方創生と外国人の受け入れをどう結び付けるかも重要。青年海外協力隊といった人材の活躍に期待したい」と述べました。

国立社会保障・人口問題研究所の是川夕国際関係部長(左)と公益財団法人日本国際交流センターの毛受敏浩理事

地方自治体・教育機関・産業界の現場から“共創”社会を作り出す

続いて行われたパネルディスカッションでは、まず群馬県の山本一太知事がビデオメッセージを寄せました。山本知事は、群馬県内に暮らす約6万人の外国籍の県民と共に新たな価値を創造し、地域に活力をもたらすための『多文化共生・共創推進条例』を2021年度に施行したことや、新型コロナウイルス感染症対応では、外国籍県民への情報伝達の難しさに直面しつつも、企業や大使館、外国人コミュニティーなどの多様なステークホルダーと連携していることを紹介しました。

熊本県の蒲島郁夫知事は、熊本県内には約1万8,000人の外国人が暮らし、農業分野では約3,000人の技能実習生を受け入れていることを紹介。「わが県が外国人に選ばれ続ける魅力ある県にならなければならない。そのためには、安全安心な労働・生活環境を提供するなど受け入れ体制の整備のほか、外国人材のキャリアアップの機会を提供し、金銭ではない将来につながる価値を提供したい」と、自身が米国で農業研修生として学んだ経験も踏まえて語りました。

熊本県の蒲島郁夫知事(左)と京都精華大学のウスビ・サコ学長

京都精華大学のウスビ・サコ学長は、「共生社会の実現と言うが、外国人はお客さんではなく、彼らがどう社会参画できるようにするかが重要。出身国同士でコミュニティーを作るのではなく、地域の一員として、例えば地域の政策づくりに参画できるなどの対話の場が必要だ。そして、職種を変えられる、研修を日本人と一緒に受けられる、日本で新しく起業できるといったキャリアアップをサポートする仕組みも必要ではないか。彼らが“外国人労働者”と呼ばれなくなる時代を夢見ている」と指摘しました。

日本経済団体連合会の産業競争力強化委員会外国人政策部会長を務める瀬戸まゆ子氏は、「今後は戦略的、積極的にいかに外国人を誘致するかが大きなテーマ。その際に企業が果たすべき役割が二つある。一つはダイバーシティー&インクルージョン経営の促進。外国人が安心して快適に暮らせるよう、先進的な取り組みをしている企業のグッドプラクティスを広げていきたい。もう一つは、ビジネスと人権の視点の強化。自社だけでなく、サプライチェーンでも外国人労働者の人権擁護を強めていくことが必要」と述べました。

日本経済団体連合会の瀬戸まゆ子氏(左)と政策研究大学院大学の田中明彦学長

政策研究大学院大学の田中明彦学長(JICA緒方研究所特別客員研究員)は、日本が選ばれる国になるためにとるべき道筋を示唆。「今回の研究結果が示した方向性は、日本はより活力のある新しい国に生まれ変わる機会を得た、と考えるべきではないか。それは、外国人対日本人という二項対立で物事を捉えず、多様な人材が切磋琢磨していく社会ということ。その意味で、『共生社会』という言葉よりも、共に創る『共創社会』のほうがよいのでは」と述べました。

最後に、JICAが同調査研究に着手した経緯を北岡理事長が振り返り、日本で外国人受け入れを進めるには制度の改革が必要と指摘。「地方自治体など、今現在、外国人受け入れの必要性に直面している“現場”から声をあげ、現状を変えていく手伝いをJICAもしたい。異文化・異言語の人が困ったときに助言・助力できる人材を有するのはJICAだ。外国人と一緒に働くことは必要であり楽しい、とみなが多様性の力を実感できるよう、『現場主義』というJICAのモットーに則って実践していく」と語りました。

この調査研究の成果については、今回のシンポジウムでの議論を踏まえ、最終報告書としてまとめられましたので、以下のリンクからご覧ください。

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