バングラデシュと宮崎から生まれた新しいODAのアプローチとは?プロジェクト・ヒストリー出版記念オンラインセミナー開催

2022.05.16

2022年3月8日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、プロジェクト・ヒストリー『バングラデシュIT人材がもたらす日本の地方創生—協力隊から産官学へとつながった新しい国際協力の形』出版記念オンラインセミナーを開催しました。

開会あいさつの中で同書を紹介したJICA緒方研究所の牧野耕司副所長は、「ODAは、人と人を橋渡しする“触媒”。その意味で今回の事例は、JICAのベストプラクティスの一つではないか」と述べました。

続いて、同書の著者で当時JICA職員としてJICA本部とバングラデシュ事務所で一連のプロジェクトを担当していた狩野剛氏(現 金沢工業大学准教授で一般社団法人「ICT for Development」代表)が同書のストーリーを紹介しつつ、登壇者が当時を振り返りながらコメントするパネルディスカッションが行われました。

著者の狩野剛氏が書籍のストーリーを紹介しつつ議論

まず、舞台は2008年。バングラデシュで活動していたコンピューター技術の青年海外協力隊員たちは、アジア各国でも相互認証されている日本の情報処理技術者試験ITEE(IT Engineers Examination)をバングラデシュにも導入すれば、将来性のある若者たちが実力を証明し、活躍できるようになると考えていました。当時、協力隊員としてムーブメントを起こそうと動き出した庄子明大氏(現JICA専門家)は、「隊員たちは現地の目線に立ち、予算も力もない同僚と途方にくれながら、それでもイノベーションを起こそうとあがいていた。幸運だったのは、私たちの話に耳を貸してくれるたくさんの人がいたこと。JICAバングラデシュ事務所長がバングラデシュ科学情報通信技術省の大臣に会う機会をつくってくれ、そこで“日本とバングラデシュに大きな橋を架けたい”という詩を読んだ。バングラデシュには“コビタ”という詩があり、特別な意味を持つ。すると、なんと大臣が返歌をくださり、この活動が動き出した」と、当時を振り返りました。協力隊員の活動は多くの人を巻き込みながら、ITEEの導入とその体制を整えるためのJICAの技術協力プロジェクトに発展し、2014年にはアジア7ヵ国目のITEE試験実施国として正式承認されました。

バングラデシュでの青年海外協力隊の活動を振り返った庄子明大氏

また、「宮崎—バングラデシュ・モデル」を誕生させた技術協力プロジェクト「日本市場をターゲットとしたICT人材育成プロジェクト」(2017〜2021年)についても意見交換。同モデルは、日本市場を念頭にバングラデシュの若者にIT人材向け日本語教育プログラムや採用の支援を行い、宮崎大学が彼らを受け入れて日本語教育を実施し、さらに宮崎市のサポートを得て同市内のIT企業に就職するというもの。当時、JICA南アジア部でバングラデシュを担当していた竹内卓朗職員(現JICA総務部総務課長)は、「高等教育を受けたのに自己実現の手段がない若者向けの雇用機会創出という課題を抱えるバングラデシュと、労働力不足の課題に悩む日本の最も切実な課題を解決できる事業であり、バングラデシュ政府、宮崎市のIT企業、宮崎市、宮崎大学、それをつなぐJICAという全てのステークホルダーにインセンティブがあるからこそ、プロジェクトがうまく回る構造ができていた」と、構想段階から手応えを感じていたと語りました。

「宮崎—バングラデシュ・モデル」について振り返ったJICAの竹内卓朗総務部総務課長

実際に、同プロジェクトに参加したバングラデシュ人の修了生265人のうち、186人が日本で就職。特に宮崎が東京に次いで多くのバングラデシュ人を受け入れている点について、JICA専門家(総括)として同プロジェクトに携わった田阪真之介氏(現宮崎大学特別教授)は、「バングラデシュ人IT人材は、来日してすぐ就職ではなく、日本語学習や企業でのインターンシップからなる宮崎大学の3ヵ月のプログラムを受講できるなど、産官学が協力して受け入れ体制を整えているのが宮崎の強み」と述べました。こうした一連の活動からの教訓として、狩野氏は「①現場から人を動かし、国を動かす重要性、②関係者それぞれがインセンティブを持てるモデルをつくること、③日本と開発途上国の最重要課題を同時に解決するアプローチが今後の新しいODAのプロジェクトデザインにつながるのではないか」と結論づけました。

バングラデシュIT人材を受け入れる宮崎の強みを説明した田阪真之介氏

質疑応答では、日本側のニーズとバングラデシュ人のニーズをすり合わせる上での課題や、同モデルを他の国や地域にどう展開していくのかなどの質問が挙がりました。最後に、JICA九州センターの吉成安恵所長が「多文化共生社会に向けて、日本独自の文化や価値観をあうんの呼吸ではなく、論理的に言語化することなどを通じて日本側が歩み寄って伝えることが必要だと刺激を受けた」と述べ、セミナーを締めくくりました。

関連動画

プロジェクト・ヒストリー『バングラデシュIT人材がもたらす日本の地方創生—協力隊から産官学へとつながった新しい国際協力の形』出版記念オンラインセミナー

関連する研究者

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ