日本とコンゴの架け橋となったマタディ橋を次世代へ—プロジェクト・ヒストリー発刊記念オンラインセミナー開催

2022.05.18

2022年3月24日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、プロジェクト・ヒストリー『マタディ橋ものがたり—日本の技術でつくられ、コンゴ人に守られる吊橋』の出版記念オンラインセミナーを開催しました。

JICA緒方研究所の牧野耕司副所長は開会のあいさつで、「インフラは建設だけでなく、その維持管理が何より重要。人なくしてインフラは守れない。現地の人々がどのように日々の点検と維持作業を続けてきたのか、本セミナーを通じて、マタディ橋から多くの学びを得てもらえれば」と期待を寄せました。

続いて同書の著者グループを代表し、株式会社オリエンタルコンサルタンツグローバルの技術顧問を務める辰巳正明氏が登壇し、書籍の内容を紹介しました。アフリカ南部のコンゴ民主共和国(以下、コンゴ)の大河コンゴ川に架かるマタディ橋の建設は、同国内の鉄道一環輸送を目指したイレボーキンシャサ間とマタディ—バナナ間の鉄道建設計画の一環でした。1977年の世界的インフレなどの影響により、マタディ橋の建設とその周辺の取り付け道路整備のみに事業は縮小したものの、マタディ橋はアフリカ初の長大な吊橋として1983年に完成。それ以降、40年近く、コンゴの人々によって維持管理が続けられています。

同書の著者グループを代表して辰巳正明氏が書籍の内容を紹介

辰巳氏は、1972年に運輸省傘下にバナナ・キンシャサ交通公団(OEBK)が設立され、現在まで維持管理を担っていることを説明しました。JICA長期専門家として国鉄や本州四国連絡橋公団(いずれも当時)などから最盛期には17人の日本人が派遣され、OEBKのコンゴ人技術者と共にインハウスエンジニアとして働いたことで、「毎日橋に触れ、橋を大切にし、橋を好きになり、橋に愛情を注ぎ、点検しようとする意志と行動を保つ」という考えが根付いていったといいます。1991年にキンシャサ暴動が発生し、日本人専門家は撤退を余儀なくされましたが、マタディ橋の維持管理は継続され、2009年にはOEBK自身によるマタディ橋の再塗装が完了。2010年にはJICAがケーブル開放調査を再開し、ケーブル送気乾燥システムを設置しました。2012年に29年ぶりに現地を訪れた辰巳氏は、「再塗装された橋は完成時とまるで変わらなかったが、かつて何もなかったコンゴ川の左岸に家屋が密集していて時間の経過を感じさせられた。長年OEBKで働いてきた故カベヤ・ンツムバ氏、アンドレ・マディアタ氏、カロンボ・ムケバ氏らが“橋守”としてよくやってきてくれた。ただ、彼らももう70歳前後であり、後継者をどう育てて橋を維持していくかが今後の課題だ」と語りました。

続いて、JICAコンゴ事務所の初代事務所長だったJICA安全管理部の飯村学審議役がモデレーターを務め、マタディ橋から得た学びと発展の可能性についてパネルディスカッションが行われました。辰巳氏は「マタディ橋は維持管理が良好に行われているという点で評価が高い。橋の維持管理の予算を確保するため、通行料を徴収し、自分たちで資金を積み立てたのは開発途上国では珍しいケースではないか」と指摘しました。

また、開発途上国の交通と物流を専門とする東京工業大学の花岡伸也教授は、インフラ建設・整備過程でソーシャル・キャピタルとエンパワメントという社会開発効果が発現する研究を紹介。「タジキスタンを事例に、道路や橋、かんがい施設など多様なコミュニティーインフラ整備プロジェクトを検証したところ、行政が住民との関係性を改善したり、住民・住民組織がニーズの把握や実施能力を改善したりと、エンパワメントを発現するメカニズムが見られた。マタディ橋も、自発的に維持管理の予算を確保するなど、エンパワメントが生み出された事例と言える」とアカデミックな視点から解説しました。

さらに、幼少期をコンゴの首都キンシャサで過ごしたJICAアフリカ部の増田淳子部長が、「現場に身を置き、その地に生きる人々のオーナーシップを大切にしながら共に汗をかくことは、JICAが掲げるビジョン『信頼で世界をつなぐ』の神髄。マタディ橋がコンゴと日本の信頼のシンボルとして末長く大切にされていくよう、引き続き助言いただきたい」とコメントしました。

東京工業大学の花岡伸也教授がアカデミックな視点からマタディ橋の事例を解説

パネルディスカッションではさまざまな立場から意見交換

質疑応答では、料金徴収を維持管理の財源にする取り組みや、今後の維持管理の課題と対策について質問が挙がりました。

最後に、JICA社会基盤部の小泉幸弘次長が閉会のあいさつとして、「整備されたインフラを持続的に維持管理していく道路アセットマネジメントを世界に推進していくため、JICAは現在、約50ヵ国でさまざまな協力を展開している。今後も取り組みを続けていきたい」と抱負を述べ、セミナーを締めくくりました。

関連動画

プロジェクト・ヒストリー『マタディ橋ものがたり—日本の技術でつくられ、コンゴ人に守られる吊橋』(現地からのメッセージ)

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