JICA緒方研究所

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「翻訳的適応」を軸にこれからのアフリカの工業化と発展を考える—AUDA-NEPADとJICA緒方研究所が書籍出版記念オンラインセミナーを共催

2022年5月17日

2022年4月7日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は2022年2月に発刊した産業開発についての書籍『Policy Learning for Industrial Development and the Role of Development Cooperation』の出版記念オンラインセミナーをアフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)と共催しました。これは、AUDA-NEPADのシンクタンク部門であるPolicy Bridge Tankとの知識共有を目指した最初のイベントです。

JICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザーが「翻訳的適応」を説明

本書は、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「日本の産業開発と開発協力の経験に関する研究:翻訳的適応プロセスの分析」の中間研究成果として発刊される全3巻のうちの第1巻です。日本がどのように産業政策を策定・実施してきたか、また、開発途上国の産業開発に向けて日本がどのような開発協力を行ってきたか、各国の事例を取り上げて議論しています。開発途上国が自らのニーズに合わせ、他国の技術や知識を適応する「翻訳的適応」(translative adaptation)の概念や政策学習の重要性について述べるとともに、ハンズオン(寄り添い)型の政策アドバイスの提供やパートナー国の学習プロセスの促進など、日本の産業分野の開発協力が目指してきた知的協力の在り方についても紹介しています。

産業政策チームの天津邦明総括(JICA)は戦後日本の産業政策の役割などを発表

セミナー冒頭、モデレーターを務めたAUDA-NEPADのパムラ・ゴパル氏が「新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)による経済的な影響が大きい中、アフリカの工業化と発展について考えるには今がまさに好機」と本セミナーの意義を語りました。

最初に、本研究の共同主査で本書の編者も務めたJICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザー(政策研究大学院大学教授)が登壇。今日における工業化の課題と政策学習の重要性や、本書の鍵概念である「翻訳的適応」について説明しました。政策学習という観点から見ると、政府は自らが産業政策のつくり方を学ぶ学習者であると同時に、国内の産官学と市民の学びの促進者となることで、学習する社会(Learning Society)へと導くことができると示しました。また、実体経済に着目して、産業政策の策定方法をやりながら学んでいく「動態的な能力強化」の重要性を強調しました。

本間徹JICA国際協力専門員が開発途上国への政策支援に関する課題を解説

次に本研究の産業政策チームの天津邦明総括(JICA)は、戦後日本の産業政策の役割と特徴、また工業化の初期段階にあった明治日本の経験について発表しました。明治日本が民間セクター主導の現実的な工業化を歩むまでに30年もの時間を要したことに触れ、そのプロセスをいかに短縮するかが、これから本格的な工業化を迎える国々にとって重要だと指摘しました。

コメントしたBRICSリサーチセンターのジャジニ・エイプリル氏

最後の発表者の本間徹JICA国際協力専門員は、産業開発と開発途上国への政策支援に関する現代の課題について解説しました。産業開発をめぐるメガトレンドを、グローバル・バリュー・チェーン、デジタル化/第4次産業革命、コロナなどの外的ショック、環境・社会配慮という4つに大別した上で、グローバリゼーションとデジタル化は新たなチャンスをもたらし、コロナや環境・社会課題解決が新たなニーズを生むというプラスの側面を示すとともに、それらのニーズに対応できる能力開発の必要性といった課題も明らかにしました。

コメントしたAUDA-NEPADのマーティン・ブワリャ氏

これらの発表に対して、2人のディスカッサントがコメントしました。BRICSリサーチセンターのジャジニ・エイプリル氏は、「何十年もの間、アフリカは援助の受け手として多くの西欧の手法を受け入れてきたが、翻訳的適応という発想はなかった。翻訳的適応はアフリカの産業発展に不可欠だ」と高く評価しました。特に明治日本の事例が興味深いと語り、「自国の社会構造を生かしつつ、海外から必要な要素をうまく取り組むことで工業化を図った点は、アフリカにとって参考になる」と述べました。AUDA-NEPADのマーティン・ブワリャ氏は、2022年11月に開催予定の産業化と経済多様化に関するアフリカ連合サミットも視野に、「本書で共有されるような知識は、『人間中心の開発』の観点からも欠かせない資源」とコメントし、文化、伝統、制度、価値観などを大事にしながら、アフリカ独自の工業化の道を切り開いていくべきとの考えを示しました。

コメントを受けて大野シニア・リサーチ・アドバイザーは、「アフリカの国々は非常に多様なため、経済統合の動きを含め大陸全体を俯瞰しつつ、各国固有の特徴や状況を踏まえて発展可能性や課題を考えるという、2つの視点が欠かせない」と語りました。天津チーム総括は、「日本、韓国、台湾、シンガポールが西欧に『追いつく』ことを目指したように工業化を図れる国もあれば、難しい国もある。もしくは独自の工業化路線を追求できる国もあるかもしれない。成長産業に着目し、さらに成長を促す環境づくりのため、政府がその産業について学ぶことが欠かせない」と指摘しました。本間国際協力専門員は起業家精神の重要性に触れ、「デジタル技術を活用すれば多くの機会が生まれ、アフリカ各国こそ『リープフロッグ型』の発展を期待できる」と語りました。さらに参加者からの質問も踏まえ、多様な視点から議論を深めました。

閉会のあいさつでは、本研究の共同主査で本書の執筆者の一人でもあるJICA緒方研究所の山田実上席研究員が「日本の経験の共有とアフリカの現実を踏まえたフィードバックにより、相互に学び合う共創の機会となった。本日の議論も受け、最終成果となる書籍の発刊に向けて研究を進めていきたい」と語り、セミナーを締めくくりました。

関連動画

AUDA-NEPAD and JICA Ogata Research Institute Joint Book Launch Webinar (Session 1)

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