カイゼンを鍵にアフリカの産業を変えていく—AUDA-NEPADとJICA緒方研究所が書籍出版記念オンラインセミナーを共催

2022.06.06

2022年4月27日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は2022年2月に発刊した産業開発についての書籍『Promoting Quality and Productivity Improvement/ KAIZEN in Africa』の出版記念オンラインセミナーをアフリカ連合開発庁(AUDA-NEPAD)と共催しました。これは、AUDA-NEPADのシンクタンク部門であるPolicy Bridge Tankとの知識共有を目指した2回目のイベントです。

本書は、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「日本の産業開発と開発協力の経験に関する研究:翻訳的適応プロセスの分析」の中間研究成果として発刊される全3巻のうちの第2巻です。JICAがアフリカで展開してきたカイゼン普及協力活動を事例に、相手国の実情に合わせてカイゼンをカスタマイズしていく「翻訳的適応」プロセスを開発協力はどのように支援できるのか考察しています。

セミナー冒頭、モデレーターを務めたAUDA-NEPADのジョージ・マルンバ氏は、「アフリカのビジネスに関わるあらゆるステークホルダーにとって、カイゼンは大きな意義がある」と述べました。

続いて、本書の編者であり、JICA経済開発部主管の品質・生産性向上(カイゼン)プロジェクトに従事する神公明氏が書籍の概要を説明しました。まず、各章が取り上げるトピックを紹介しながらカイゼンの要諦を改めて明らかにし、アフリカ大陸における取り組みの全体像を示しました。JICAは、チュニジアを皮切りに、2006年から現在に至るまでアフリカ9ヵ国で日本式の生産性向上・品質管理手法であるカイゼン普及協力を展開。近年はAUDA-NEPADと連携し、アフリカ・カイゼン・イニシアティブを立ち上げ、さらに汎アフリカ生産性協会(PAPA)の参加も得て、各国の実施機関や企業のカイゼン普及に向けた取り組みを実施していることを説明しました。さらに、実務者と研究者の協働による実践的研究の必要性を強調するとともに、「企業はカイゼンを推進する組織風土をつくることで、デジタル時代の変化に対応できるだろう」と指摘しました。

編者の神公明氏が書籍の概要を説明

次に、エチオピアの認定主席カイゼンコンサルタントのゲタフン・タデッセ・メコネン氏は、本書の第2章で扱われている日本とシンガポールにおけるカイゼン普及にかかる6つの成功要因(①政府の関与、②制度的インフラストラクチャー、③草の根レベルの意識向上、④標準化されたトレーニングプログラム、⑤産業、学術界、政府のパートナーシップ、⑥民間セクターの能力開発)について発表しました。アフリカ7ヵ国でのカイゼンの取り組みの現状については、成功要因のほとんどが満足なレベルには達しておらず、どの国もカイゼン実施に向けた学習の初期段階にあるとしました。その上で、企業がカイゼン活動に積極的に費用分担するような働きかけや産官学連携の推進をするなど、今後を見据えた8つの提案がなされました。

エチオピアの認定主席カイゼンコンサルタントのゲタフン・タデッセ・メコネン氏

最後にケープ・タウン大学のノーマン・フォール教授は、執筆した第5章をもとに、2019年から始まったカイゼンに取り組む企業を表彰する制度(The Africa Kaizen Award)が生産性と品質向上にどう貢献したか発表しました。2019年には10ヵ国の16社から応募があったものの、調査によると、カイゼンに取り組む理由などについて、応募者側と審査側では大きく関心の違いが見られたと報告。「カイゼン企業表彰制度は野心的な取り組みなだけに、アフリカ全土で迅速な成果が期待できるわけではないが、関係者と共に粘り強く取り組みを続ける必要がある」と結びました。

ケープ・タウン大学のノーマン・フォール教授は執筆した第5章を説明

これらの発表に対し、2人のディスカッサントがコメントしました。ウィットウォーターズランド大学のガース・シェルトン准教授は、「本書には独自性が高い調査がふんだんに盛り込まれている。アフリカの経済発展や生産性に関心がある人にとって必読の一冊」と高く評価しました。また、AUDA-NEPADのパムラ・ゴパル氏は、「カイゼンは製造業だけでなく、あらゆる業種やセクターに適用されるべき。カイゼンこそが抜本的なイノベーションの前提条件になる」と述べました。

コメントを受けて神氏はカイゼンの定量評価手法をさらに精緻化する必要性に触れ、2022年5月からJICAが新たに行う南アフリカでの自動車産業におけるインパクトアセスメントに関する調査を紹介しました。ゲタフン氏は、「これまでの取り組みをアフリカそれぞれの国全体のムーブメントにしていくため、JICAやAUDA-NEPADと今後も協働していきたい」と抱負を述べたほか、フォール教授は「アフリカでは公的セクターにおける雇用が多いが、もし民間セクターでの雇用が増え、競争力の高い経済になったら、労働人口のモチベーションは全く違うものになるかもしれない」という仮説を示しました。

コメントしたウィットウォーターズランド大学のガース・シェルトン准教授

コメントしたAUDA-NEPADのパムラ・ゴパル氏

最後に、本書の編者を務めたJICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザー(政策研究大学院大学教授)は、「カイゼンだけが唯一の生産性向上の手法ではなく、それ以外の手法も同時に重要である。AUDA-NEPADのさまざまな取り組みを含めて多面的に議論できる、こうしたプラットフォームは非常に有効。他の課題についてもアフリカ諸国と知識を共創していきたい」と閉会のあいさつをし、セミナーを締めくくりました。

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