カンボジアで家計簿による金融教育の効果をモニタリング—相場研究員ら

2022.06.20

五常・アンド・カンパニー、民間連携事業部との共同調査

2022年6月6、7日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の相場大樹研究員とソワンルン・サムレト客員研究員(埼玉大学准教授)がカンボジアに出張し、現地で行われている家計簿による金融教育の効果に関する調査の状況についてモニタリングを行いました。本調査は、JICA緒方研究所の研究プロジェクト「カンボジアにおける金融包摂促進のための実証研究」の一環として、JICA民間連携事業部、JICA緒方研究所、五常・アンド・カンパニー株式会社による共同調査という形で実施しているものです。

カンボジアの複数の家計でインタビューを実施

近年、カンボジアでは、商業銀行やマイクロファイナンス機関の顧客が過重債務に陥ってしまうという問題が起きており、家計や個人レベルでの金融リテラシーの向上や消費者保護法の整備の重要性が指摘されています。また、金融機関から借入ができる家計の割合が低く、金融包摂の促進がいまだに課題です。これらの課題に対応するために、今回の調査では家計の収支状況を詳細に把握することで、家計簿の使用により金融リテラシーがどの程度改善するのかを捕捉するとともに、過重債務の要因を洗い出し、現地の政策策定者や金融実務者に対し消費者の保護に資する提言を行うことを目指しています。

本調査では、一年間、カンボジアの家計にプログラムに参加してもらい、家計簿について教え、家計の支出記録を定期的に調査員に報告してもらっています。一年間、家計簿をつけることで家計の貯蓄の増加、金銭管理能力の向上、および金融リテラシーの改善が見られるかを検証します。また、家計簿の記録から得られる詳細な家計の収入と支出、貯蓄、借入に関するデータを分析し、現地のマイクロファイナンス機関による金融商品開発やカンボジア政府による政策策定にあたっても有用な知見を引き出していくことも目的としています。

「家計簿」をつけることで行動も変化する

今回のモニタリングでは、相場研究員らがカンポンチャム州の農村地域の家計簿調査の対象となっている複数の家計でインタビューし、対象家計や周辺環境の経済状況を把握したほか、このプログラムに参加した感想を尋ねました。その結果、「本プログラムに参加する前は家計簿をつけたことがなかったので、家族全体の収入や支出を厳密に記録するのは初めての経験となった」、「家族同士で収入や支出を確認し、見直すきっかけになっている」、「記録をつけることで無駄な支出を把握できるようになった」といった回答があり、家計簿をつけ始めたことで行動変容があった可能性をうかがえる家計もありました。また、「プログラム終了後も習慣として家計簿を続けていきたい」と答えた家計もありました。さらに興味深い回答として、「収支の記録をつけることは女々しいという印象があったが、プログラムに参加して印象が変わり、妻に代わって家計簿をつけている」と答えた男性もいました。一方で、「文字の読み書きができないので、子どもに収支の記録をさせている」といった回答もあり、家計簿をつける上で課題を持つ家計も存在することが分かりました。

調査対象となっている家計でつけられていた家計簿

今後、相場研究員らは、家計簿を利用した金融教育が実際にどの程度の効果を生んでいるのか、計量経済学の知見を使って定量的に分析を行う予定です。今回のプログラムでは、ランダム化比較実験と呼ばれる手法に基づき、事前にランダムに選ばれた家計にプログラムの参加権限が与えられています。今後は、プログラムの対象となった家計とそうでない家計についてのデータを追加的に収集し、プログラムの効果の程度を検証していきます。

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