SDGs時代に「質の高い成長」をどう実現していくか?—ナレッジフォーラム第12回開催

2022.08.02

2022年6月21日、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は第12回ナレッジフォーラム「SDGsと質の高い成長~誰ひとり取り残さない、持続可能でレジリエントな社会に向けて~」をウェビナー形式で開催しました。

「質の高い成長」は、2015年に発表された開発協力大綱で日本の開発協力の重点課題として掲げられ、2017年に定められたJICAのミッションにも含まれています。JICA緒方研究所も「質の高い成長」に関する研究を続け、同研究の成果として2022年3月に書籍『SDGs, Transformation, and Quality Growth: Insights from International Cooperation』を発刊しました。

開会にあたり、JICA緒方研究所の高原明生研究所長が「最も基本的な開発課題である貧困の解決には経済成長が不可欠と考えられてきたが、今、さまざまな課題に直面しているのは開発途上国だけではない。つまり、GDPの成長といった量的な成長だけでは、全ての課題を解決できないということ。成長の恩恵がいきわたり、人々が幸せに暮らせる社会の実現を目指す『質の高い成長』は、国際社会に多くの示唆を与えてくれる重要な概念だ」とあいさつしました。

「質の高い成長」の実現を支えるものとは?

続いて、同書の著者であるJICA緒方研究所の細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザーが基調講演を行いました。まず、同書のタイトルに含まれた「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)」「変革(Transformation)」「質の高い成長(Quality Growth)」という3つのキーワードについて、その関係性を次のように解説しました。「SDGsの中には『質の高い成長』の視点が広く含まれており、両者は不可分の関係。また、SDGsの具体的なゴールが変革目標(transformative goals)と呼ばれているように、SDGsと変革も非常に関係が深い。そして変革が『質の高い成長』の牽引力となると同時に、『質の高い成長』の実現がさらなる変革を可能にする関係にある」。続いて、「質の高い成長」をどのように実現していくかについては、そのアプローチの一つとして産業の発展を取り上げました。「産業の発展と産業構造の高度化が社会全体の変革の牽引力になっていく。そのためには『質の高い成長』の視点に立った戦略や産業政策が求められ、学習を続ける社会(Learning Society)の構築こそが経済成長につながるのではないか」と述べました。同書では、産業発展のカギを握る産業政策を念頭に、多くのケーススタディーを取り上げています。細野シニア・リサーチ・アドバイザーは、産業構造を変革した例としてバングラデシュの縫製産業やタイの自動車産業を挙げ、「産業の発展と変革は内発的なプロセスだが自動的に進むわけではないため、それを促す産業政策が重要であり、かつ、現地の人々自らが直面する課題を把握して解決に取り組むオーナーシップと当事者と関係者の相互のラーニングが重要」と結論づけました。

基調講演を行ったJICA緒方研究所の細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザー

「質の高い成長」に向けて開発協力が果たす役割

JICAガバナンス・平和構築部平和構築室の室谷龍太郎室長がモデレーターを務めたトークセッションでは、二人のパネリストが書籍についてコメント。まず、「質の高い成長」の研究に携わってきたJICA緒方研究所の広田幸紀客員研究員(埼玉大学教授)は、「『質の高い成長』はそれが生まれた背景から論じることが重要。経済成長の目標が所得(GDP)に偏りすぎているので、総合的にウェルビーイングを考えることが必要という国際的な議論と方向を同じくする。『質の高い成長』は日本なりの成長戦略論。この考え方を国際的に普及させるには、理論・指標・方法論が必要で、この書籍は特に方法論に関して、広く影響を及ぼすような、言わば『感染力の高い』ナラティブだ」と述べました。また、JICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザー(政策研究大学院大学教授)は、「本書の意義は、SDGs時代の開発途上国の開発戦略の在り方について、具体的かつ多様なオプションを提示していること。日本の開発協力の豊富な事例を基に、レシピエントとドナー双方にとって『How』という観点に立って実践的な知識が散りばめられている」と語りました。

トークセッションに参加したJICA緒方研究所の広田幸紀客員研究員

続いて室谷室長は、「質の高い成長」の3要素(包摂性、持続可能性、強靱性)を全て実現するための国際協力の役割、日本あるいはJICAの役割について質問。パネリストはそれぞれ「成長と3要素を国際協力の中で両立させていくアプローチとしては、例えば、①3要素を目指せば目指すほど成長が実現する良いシナジーのある成長アプローチ、②産業政策に最初から3要素を組み込んでおくアプローチ、③両立が難しい産業での成長による収入を、3要素を高めるための政策に充てるアプローチがあるのではないか」(細野シニア・リサーチ・アドバイザー)、「従来型の発展モデルが行き詰っている中、技術協力の役割はますます重要であり、JICAがさまざまな国で実施してきた開発協力のモデルを良いナラティブとして提示し、広げていくことが重要。また、個々の事業においても、質の高い成長の視点、特に公平性(equity)の視点を選定基準やデザインに取り入れていくことが効果的では」(広田客員研究員)、「日本の近代化の経験を各国に共有する取り組みをさらに進めて、JICAは相手の実情を理解した上で知識を共有するファシリテーターになること、変革を起こし共に行動する原動力となる人やネットワークを見つけて協力していくこと、国別協力アプローチにおいて、例えば産業構造など、『メソレベル』で包摂性や強靭性を横断的に見ることが重要ではないか」(大野シニア・リサーチ・アドバイザー)と応じました。

トークセッションに参加したJICA緒方研究所の大野泉シニア・リサーチ・アドバイザー

最後に、「成長だけでは十分ではないという議論は昔からあるが、SDGs時代での今回の議論は何が違うのか?」など、参加者から寄せられた質問にパネリストが答え、活発な議論が行われました。

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