COVID-19の感染拡大を抑えている要因やCOVID-19の暴力被害への影響は? ー駒澤研究員らが2022年日本公衆衛生学会で発表

2022.12.15

第81回日本公衆衛生学会総会が2022年10月7~9日の3日間、山梨県で開催され、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の駒澤牧子研究員と白山芳久客員研究員(順天堂大学准教授)が参加し、ウガンダとブータンで実施中の研究の成果を発表しました。学会には2,200人を超える実務者、研究者、学生が集い、「公衆衛生イノベーション」をテーマにCOVID-19対応の経験とポストコロナ時代の公衆衛生について議論を交わしました。

病院の入り口で検温を実施

ウガンダでCOVID-19の感染拡大を抑えている要因とは

駒澤研究員は「ウガンダにおいてCOVID-19 の感染を抑えている要因:地域中核病院における定性研究」と題して発表しました。ウガンダはCOVID-19の陽性者数や死亡者数がアフリカの平均より低く、感染拡大を抑え込んだと評価されています。そこで、医療資源に制約のあるウガンダにおいて、COVID-19感染症対応で中心的役割を担った地域中核病院の取り組みの中で、感染拡大を低く抑えた要因を考察しました。

この研究は、4つの地域中核病院で2022年3~4月にインタビューを実施し、その結果を分析したものです。感染拡大を低く抑えた主な要因として、①COVID-19 前から、基本的な感染症対策、サーベイランス・検査、報告体制などが整備されていたこと、②保健省とWHOにより、パンデミック初期から技術的指導、人・モノ・カネの支援が迅速に行われたこと、③医療従事者は院内感染が拡大する中でも、少ないスタッフで踏みとどまり、通常のサービスを提供し続けることができたこと、④既存のコミュニティ・メカニズムが早期発見・対応(検査、隔離、治療等)を可能にしたこと、などが抽出されました。これらはレジリエントな保健システム構築に欠かせない要因であり、ウガンダの地域中核病院においてそれらの要因が担保されていたことが分かりました。

医療資源・人材に根本的な制約がある環境でも、政府のリーダーシップの下、医療現場・コミュニティなど既存のキャパシティを最大限活用することによって、レジリエントな保健システムの基本的な構成要因が強化されます。平時から各保健施設において、保健サービス提供に必要な構成要因を強化し、緊急時の対応を習得しておくことの重要性を指摘しました。

ブータンにおけるロックダウン下での暴力被害の増加と要因

白山客員研究員は「新型コロナウィルス感染症パンデミックと暴力被害」と題して、JICA、ブータン政府およびUN機関が2021年に実施した調査「COVID-19 Impact on Women and Children Study」のデータを二次分析し、ロックダウン下における暴力被害の増加の程度とその要因について検証しました。調査対象者はブーダンの18歳以上の男女8,048名で、女性が63.7%、識字能力がない人が51.2%、世帯月収約8,500~34,000円 (参考:一人当たり平均月収2,040円(1 Nu=約1.7円、2000年ブータン家計調査))の人が49.6%、コロナ禍で収入が減少した人が55.7%でした。

暴力被害に関する結果では、パンデミック発生後に身体的な暴力の被害にあった人が134名 (1.7%) でした。その暴力の引き金となった要因として飲酒が57.5%、次いで収入の減少が26.9%と報告しました。また、パンデミック前から被害を受けていた人(134名)の48.2%がパンデミック禍で暴力が増えたと回答し、性別で比較すると、女性への家庭内身体的暴力が有意に増加していました。

心理的な暴力の被害に関しては、パンデミック前にも被害を受けていた人(556名)のうち、35.4%がパンデミック発生後も継続的に被害を受けたと報告しており、そのうちパートナー間暴力に関しては、21.5%がパンデミック前よりも増えたと報告しました。心理的、経済的暴力は識字能力がない人でより多く増加していることが分かりました。

ブータンではCOVID-19 によるロックダウンや学校閉鎖によって、身体的、心理的、経済的暴力がいずれも増えており、性別や教育レベルによってその差があることが浮き彫りになったとし、さらなる研究が必要であると締めくくりました。

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