人道と開発の垣根を越えて:長期化難民危機に対する支援の在り方は

2023.03.20

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、JICAによる難民支援の軌跡を記録した書籍プロジェクト・ヒストリー『人道と開発をつなぐ~アフリカにおける新しい難民支援のかたち』の刊行を記念して、2023年2月24日、対面とオンラインのハイブリッド形式でUNHCR駐日事務所およびJICAガバナンス・平和構築部と共にシンポジウムを開催しました。人道と開発の垣根を越えた長期化難民危機に対する国際支援の在り方について議論しました。

シンポジウムの冒頭、JICA緒方研究所の牧野耕司副所長が挨拶。「難民支援は国際機関やNGOなどの人道支援機関の仕事であって、JICAのような開発協力機関が貢献できることは限られると考えられてきた。しかし、紛争の長期化に伴い、従来の方法では対処できない課題が出てきた。開発協力機関であるJICAがウガンダで難民支援を始めた経緯やその後の展開を紹介し、人道と開発の垣根を越えた難民支援の在り方について議論したい」と述べました。

JICA緒方研究所の牧野耕司副所長

なぜJICAはウガンダで難民支援を始めたのか

続いて、書籍の著者であるJICA緒方研究所の花谷厚主任研究員が講演を行いました。自身がJICA南スーダン事務所長を務めていた2013年に同国で武力衝突が起き、その後の2016年の紛争時と合わせて、現在も100万人近くの人が隣国ウガンダに避難していることを紹介しました。「2015年には欧州でも難民危機が発生し、国際社会は2016年の世界人道サミット、難民と移民のためのNY宣言、包括的難民支援枠組み(CRRF)、2018年の難民に関するグローバル・コンパクト(GCR)などで対応した。UNHCRが打ち出したCRRFでは、難民の長期化を前提として受け入れ国の負担軽減や難民の自立化支援を柱として掲げており、その実現に向けた人道支援と開発援助の連携の必要性をうたっている」と、当時の世界情勢について述べました。

JICA緒方研究所の花谷厚主任研究員

これらの動きを受けて開発協力機関であるJICAも本格的な難民支援に舵を切りました。花谷研究員は「ウガンダ自体が伝統的に難民に寛容な政策をとっており、難民の社会統合を進めようという国家開発計画を作成していた。またJICAは南スーダン難民が流入した北部ウガンダ地域を2009年から支援し、地方自治体との間ですでに強い信頼関係が築かれていた。こうした下地の上で、難民支援枠組みに中央政府の地方自治省に参加してもらったり、地方自治体の開発計画指針を改定したりすることで、受け入れ地域の地方自治体の能力強化を手がけた。その他、難民が食料援助だけに頼らず生活できるよう、既存のプロジェクトを活用して稲作技術指導や職業訓練を行ったりした。また、難民受け入れにより大きな負担を被っている地域社会のために、小学校建設や周辺の道路整備などにも取り組んだ」と述べ「人道と開発はもとより、国際機関、南スーダン政府、ウガンダ政府をつないだのが『人間の安全保障』というキーワードであったと思う」と言い添えました。

2023年12月開催予定の第2回グローバル難民フォーラムに向けて

次いで2014年から2016年までJICAに出向していたUNHCRの帯刀豊上席ドナー調整官が「出向中は世界的に難民に関する大きなうねりがあった時期で、JICAも例外ではなく、強いモメンタムを感じながら仕事ができた。UNHCRは2019年にグローバル難民フォーラムを開催したが、今年12月に開催予定の第2回フォーラムでは人道と開発の連携(ネクサス)を大きなトピックとして取り上げる予定。しかも日本は共同議長を務めるので、モメンタムが再び来ていると期待している」とメッセージを寄せました。

オンラインで参加したUNHCRの帯刀豊上席ドナー調整官

長期化する難民危機に対して日本は何ができるのか

シンポジウムの後半は、JICAガバナンス・平和構築部の室谷龍太郎平和構築室長がモデレーターを務め「長期化する難民危機に対して日本のできること」と題したパネルディスカッションが行われました。

1990年代からウガンダ北部の西ナイル地域で難民支援に携わってきたJICAの小向絵理国際協力専門員は、難民と地域住民が一緒にコミュニティインフラを共有している写真を紹介しながら、「難民が大量に流入して、しかもその状態が長期化する西ナイル地域の開発を考えていく過程で、人道支援と開発援助の協力の在り方も変えていく必要があるのではと議論が発展。地方行政に携わる人たちが地域住民、難民双方に対応してもパンクしないように国際社会も支援していくことが重要と考えた」とウガンダ側の視点で発表しました。

次に認定NPO法人テラ・ルネッサンスの鈴鹿達二郎アフリカ事業マネージャーが、「2006年からウガンダ北部で子ども兵士の社会復帰を支援してきたが、2016年の大量の難民流入に伴い緊急支援も行った。2018年からは難民居住区に職業訓練所を設けて、難民と受け入れ地域住民の双方を対象に本来の自立支援のプロジェクトを展開してきた」と活動を紹介する一方で、「我々の立案内容に対してドナーから人道か開発かと問われることがあったが、業界全体でハイブリッドであると意識していれば、より柔軟に支援が行えるのではないか」と提言しました。

2023年1月までレバノンでシリア難民支援に携わっていたUNHCR駐日代表の伊藤礼樹氏は、人道と開発のネクサスが機能するのに必要な要素として「相手国政府の意思、中央政府と地方自治体を含めた政府全体での取り組み、データ、現地での援助実績、初動時に関係者をつなぐネクサスコーディネーター」の5つを挙げました。

JICAガバナンス・平和構築部の室谷龍太郎平和構築室長

小向絵理JICA国際協力専門員

パネルディスカッションに参加した認定NPO法人テラ・ルネッサンスの鈴鹿達二郎アフリカ事業マネージャー(右上)、UNHCR駐日代表の伊藤礼樹氏(左下)

最後にJICAとしての難民支援のアイデアを問う参加者からの質問に「影響を受けている受け入れ地域や地方自治体に対する開発援助がエントリーポイントになる」(小向専門員)、この取り組みが日本に与える影響はという問いには「ウガンダのケースは非常にユニークなもので世界的にもリーダーシップが取れる」(伊藤駐日代表)、「日本国内でウクライナ難民を2000人受け入れたが地方自治体には予算がないと聞いている。国全体でどう受け入れていくか考えていかなければならないが、ウガンダの事例にそのヒントがある」(花谷研究員)と応じました。

このシンポジウムは、ウガンダの事例にさまざまな立場で関わったパネリストの意見交換を通じて、長期化する難民危機への対応について、難民と受入地域の住民の双方の保護と自立を目指して、人道支援と開発協力がそれぞれの強みを生かしつつ、どのように融合した協力を進めることができるか議論する機会となりました。

関連する研究者

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ