JANIC・JICA緒方研究所共催ナレッジフォーラム 「日本の市民や地域の知見を世界に~草の根技術協力事業20年を振り返る」

2023.05.16

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)は、特定非営利活動法人国際協力NGOセンター(JANIC)と共に2023年3月22日、ナレッジフォーラム「日本の市民や地域の知見を世界に〜草の根技術協力事業20年を振り返る」をウェビナー形式で開催しました。本ナレッジフォーラムでは、草の根技術協力事業を実務者、研究者などのさまざまな視点から振り返り、今後の事業の在り方について議論しました。

開会にあたり、JICA緒方研究所の牧野耕司副所長(当時)が「2003年改定の開発協力大綱にNGOなどとの連携や国民参加の拡大が追記され、JICAは草の根技術協力事業を含めた市民参加協力事業を立ち上げた。この20年間、NGOなどの団体、地方自治体、大学などのパートナーのみなさんと共に、世界各地でさまざまな取り組みを行ってきた。草の根技術協力は、JICAがミッションとして掲げる人間の安全保障が目指す、『さまざまな脅威に対してレジリエントな社会の構築』に寄与する。現在、日本政府による開発協力大綱の見直しが進められている中、草の根技術協力事業を振り返り、そこから得られる学びを、人間の安全保障に向けた取り組み、そして、JICAの他の事業にも活用していくことは、国際協力をより良いものにしていくために非常に重要だ」とあいさつしました。

JICA緒方研究所の牧野耕司副所長(当時)

市民社会の盛り上がりに呼応して誕生

フォーラム前半では、関係者がそれぞれの立場から事業の意義や課題、インパクトについて発表しました。

最初にJICA国内事業部市民参加推進課の日浅美和課長が、「1995年の阪神・淡路大震災を機に、2000年前後に多数のNGO、NPOが誕生した。2002年に創設された本事業は市民社会の盛り上がりという社会のニーズにマッチしており、アジアなどを中心に農業・保健・教育の分野で多くの案件を実施してきている。そして、より使いやすい制度を目指した制度改善を進めている。これまで実施した事業では、事業成果がボトムアップ的に相手国の施策に反映されたり、実施団体自身の組織強化、獲得資金の拡大につながったりという成果が上がっている」と、草の根技術協力事業を振り返りました。

JICA国内事業部市民参加推進課の日浅美和課長

事業の成果は日本でも生かされている

続いて、フィリピンを拠点に活動する特定非営利活動法人アクションの横田宗代表が、NGOの視点から発表を行いました。

「貧困層の子どもたちを支援する施設の職員向けのスキルアップ研修に草の根技術協力事業を活用した結果、その研修はフィリピン国が行う研修として導入された。さらに子ども向けのライフスキル研修とその教材が少年福祉法審議委員会の正規プログラムとして認証され、現在、日本の児童養護施設向けに教材の日本語版も作成中だ」と、事業の成果と日本への還元について紹介。「日本の公的資金で実施する草の根技術協力事業は、フィリピンの公的な制度や仕組みづくりに適している」と、その利点を述べました。

特定非営利活動法人アクションの横田宗代表

技能実習生受け入れもスムーズに

北海道滝川市の一般社団法人滝川国際交流協会の森田詠美事務局長は自治体の立場から発表しました。滝川市は2012年から市の総合計画で「世界に誇れる田園国際都市」という都市像を掲げて国際協力、国際交流を行っています。

「一般財団法人自治体国際化協会(CLAIR)など他のプログラムも活用し、これまで交流のあった国は100カ国以上にのぼる。そのうちマラウイ、カンボジア、モンゴルで草の根技術協力事業を行ってきた。その結果、住民は自分たちの地域・人の魅力を再発見し、協力相手の自治体とのつながりも生まれた。例えばモンゴルの事業実施地域であるウブルハンガイ県と『友好交流推進宣言』を交わすに至り、その後、同県からの技能実習生の送り出しと滝川市での受け入れがスムーズに進んでいる」と、成果を紹介しました。

一般社団法人滝川国際交流協会の森田詠美事務局長

評価は実施団体にとっても意味がある

続いてJICA緒方研究所の原田徹也上席研究員が、研究者の視点から発表を行いました。原田研究員は、インドネシア北スマトラ州ニアス島で実施されたマエナという伝統舞踊を活用した小学生の防災教育を行う草の根技術協力事業について、実施団体と研究者で共同研究チームを作り、インパクト評価の手法を用いて事業の効果を測定しました。

JICA緒方研究所の原田徹也上席研究員

外部も視野に入れた事例共有を

最後に、JICA中国市民参加協力課の澁谷和朗課長が、事業を担うJICA国内機関として発表を行いました。JICA中国管轄5県の地域特性が案件形成につながっていることを紹介し、代表事例としてベトナム高齢者介護予防とブータン美術教育支援を挙げました。草の根技術協力事業の課題として経理処理、事務処理の煩雑さを挙げ、加えて実施団体間のナレッジ共有の仕組みづくり、二国間協力機関として還流人材支援や、地方創生に資する国際協力という視点の取り組みをJICA側で強化する必要があると展望を語りました。

JICA中国市民参加協力課の澁谷和朗課長

情報発信と知見共有を積極的に

フォーラム後半は日浅課長がモデレーターを務め、参加者からの質問も折り込みつつ、発表者らによるパネルディスカッションが行われました。

パネルディスカッションに参加した発表者ら

滝川国際交流協会の森田事務局長は、地域社会への還元について「講師や専門家として自分の技術が生かせることにやりがいや生きがいを感じて人生が変わったと言ってくださる方もいる。また、来日した草の根技術協力事業の研修員を地域の小学校に受け入れることで、意識が高い人がするものだという国際協力の壁を感じる人が少なくなったように思う」と紹介しました。

NPO法人アクションの横田代表は、「事業に参加してくれる団体を増やすには、事業を活用してこのように成長した、変わっていったという事例をまとめて紹介するなど、『組織の成長をサポートする』という点がうまく伝われば効果があるのではないか」と提言。一方で、「待遇面で、専門性のある人材にはそれなりの単価をつけてほしい。外部人材に関してもある程度、国際的な基準にしていただけるとありがたい」と要望しました。

JICA緒方研究所の原田上席研究員は、「評価で効果を定量的に示す意味は大きい。うまく示すことができれば実施団体の自信にもつながるし、示せなかった場合は原因を考える材料になる。また、例えばインドネシアでは日本の自治体によるゴミ処理分野の協力が多数行われているが、きちんと評価されておらず、どのやり方がベストなのかわからない。こういったところを積極的に研究して知見を共有できるようにしておくことは重要ではないかと考える」と評価の活用法を提案しました。

JICA中国の澁谷課長は「海外の地方の団体やパートナーと直接つながっていくことで地方が元気になる。日本の地方にいると、それを能動的にやっていかないといけない時代だと感じる。我々がお手伝いしている団体が、草の根という付加価値のある事業を通じてそこに人が集まってくる、地域のハブになっていくような展開ができるといいのではないか」と、地方創生と国際協力のかけ算について将来像を語りました。

草の根技術協力事業は、開発協力の原点

最後にJANICの若林秀樹理事が、「草の根技術協力事業は、途上国の現地の課題解決につながるのはもちろんだが、事業を行っている団体の能力強化やネットワークの拡張、地方創生につながったり、実施している機関の学びの場になったりと、さまざまな奥行きのある事業だと思う。改めて開発の原点に触れた気がする。その上でJICAという団体と組むことによって、それぞれの良さが発揮されるのではないか。今後は、アクター、取り組み方法、イシューの変化を踏まえた提案をしていくことが、現地の、我々の成長のプラスになるのではないか」と、議論を総括しました。

特定非営利活動法人国際協力NGOセンター(JANIC)の若林秀樹理事

そして、JICA国内事業部の福田茂樹部長が「本日の発表から、NGO事業の持続性の在り方、国際協力に関心を持つ個人や団体とのナレッジの共有の必要性、日本の課題と途上国の課題を一体的に考えて解決していく取り組みの重要性など多くのヒントをいただいた。また、20年間を振り返り、草の根技術協力事業の意義やインパクトが確認できた。今後の発展、課題の解決に向けて、JICAだけではなく、みなさんと一緒に考えていきたい」とあいさつし、フォーラムを締めくくりました。

JICA国内事業部の福田茂樹部長

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