2015年6月1日
JICA研究所は2015年5月19日、ラミチャネ・カマル筑波大学教育開発国際協力研究センター（CRICED）准教授（元JICA研究所研究員）の執筆した書籍『Disability, Education and Employment in Developing Countries : From Charity to Investment（途上国における障害と教育、雇用：チャリティーから投資へ）』がケンブリッジ大学出版局より発刊されたことを記念したセミナーを開催しました。
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| 発表をするラミチャネ准教授 |
本書は、インド、カンボジア、ネパール、バングラデシュ、フィリピンの5ヵ国から得られた実証データに基づき、開発途上国における障害者の教育と雇用の関係性を分析した結果をまとめたものです。開会のあいさつに立ったJICA研究所の畝伊智朗所長は、本書を、「実証データに基づいて書かれたという点で、過去にほとんど例がない本であり、実務者や研究者に重要な示唆を与えるものである」と評価。さらに「私たちは高齢化や事故、災害などにより誰もが障害を持つ可能性があり、障害者の社会参画を保障する社会を作ることは、すべての人が恩恵を受けることができる社会を作ることでもある」とその意義を説明しました。
基調講演に登壇したラミチャネ氏は、本書の概要とともに、途上国の障害者がおかれている背景を説明しました。世界の人口の約15%がなんらかの障害を持ち、そのうち8割が途上国で暮らしているとされており、途上国の障害者は、世界的にも最も貧しく、社会から取り残された集団の一つであると、ラミチャネ氏は指摘します。しかし、途上国の障害者についてのデータの蓄積や実証研究は、これまで十分には行われておらず、教育の効果についても明らかにされていないのが現実です。
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| 知的障害者が通うネパールの養護学校。 青年海外協力隊員と一緒に踊る (写真提供：佐藤浩治/JICA) |
ラミチャネ氏は、障害者が教育を受けることの便益を、教育期間と賃金の関係性の推計に基づく「教育の収益率」として、雇用に対する教育の効果を分析し、障害者が労働市場から取り残されている要因を分析しました。その結果、障害者の教育収益率が条件によっては、健常者よりも高いにもかかわらず、生産性が低いという先入観や教育水準の低さ、インフラの悪さによる通勤の困難さなどが、障害者の雇用を妨げていることを明らかにしました。そして、教育水準の低さには、親の知識や理解不足が大きく影響していることなどを指摘し、「重要なのは慈善から投資へパラダイムをシフトし、社会の意識を変えていくこと」と訴えました。
続いて、東京大学大学院経済学研究科・経済学部の澤田康幸教授（JICA研究所客員研究員）が、障害分野におけるエビデンス（実証的な証拠）の意義についてコメントし、「この本には多くの重要な貢献があるが、そのうちの一つは、教育の収益率という投資の視点から障害と教育を分析したことである。今後は、今回の5ヵ国から得られた知見が、他の国々にも当てはまるのか、検証する必要がある」と評価しました。また、障害分野を専門とするJICAの久野研二専門員は、「本書はわれわれが希求していたエビデンスを提示するとともに、このエビデンスに対してJICAがどのように対応していくのか、今後の課題を突き付けている」と述べました。
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| 発表をする澤田教授 |
最後に行われた質疑応答では、「今後、どのように研究を発展させていくのか。またそのために、どのようなデータが必要なのか」「途上国ではエビデンスを集めるのが難しいが、どのように集めたのか」「本書は身体障害者を対象にしているが、知的障害者や精神障害者の分析は可能か」などの質問が寄せられました。ラミチャネ氏は「今後は対象国を広げるとともに、知的障害者や精神障害者のデータも集めながら、さらに研究を進めていきたい」と述べ、セミナーをしめくくりました。
| 日時 | 2015年5月19日（火） |
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| 場所 | JICA市ヶ谷ビル |
開催情報
| 開催日時 | 2015年5月19日(火) |
|---|---|
| 開催場所 | JICA市ヶ谷ビル |
