『Disability, Education and Employment in Developing Countries: From Charity to Investment』
ミレニアム開発目標(MDGs)の最終目標年2015年を目前に控え、2015年以降の新たな開発目標を設定するための議論が最終段階を迎えています。その議論の中では、世界人口の15%を占める障がい者をも含めた、包摂的(インクルーシブ)な目標設定の重要性が指摘されています。障がい者の80%は途上国に居住しているとされる一方、そのデータの蓄積や実証研究はこれまで、十分行われていません。
本書は、ネパール、インド、バングラデシュ、カンボジア、フィリピンといった低・中所得国から得られた実証データに基づいて、途上国における障がいと教育、雇用の関係性について体系的に分析した結果をまとめたものです。分析は、障がい学、教育学、経済学、社会科学、哲学、公共政策や開発学といった多くの学問領域にわたり総合的になされ、他に類をみない成果を上げています。
分析の結果、障がい者の教育や市場参加における障壁要因は、差別、学歴の低さ、職業訓練機会の不足、賃金の格差、学校のサポート不足、貧困などにあることが確認されました。一方、これらの課題を克服し、障がい者の教育や雇用などの人的資本に投資し、障がい者がホワイトカラーの仕事につきやすくすることは、障がい者の社会的包摂や経済的なエンパワーメントにおいて重要であり、ひいては、その家族、社会全体の裨益につながることが示されました。また、健常者の教育への投資の収益率と比べて、障がい者の教育収益率は2~3倍も高いことが明らかになりました。
筆者は、各国政府や国際機関は、従来ともすると慈善として捉えられてきた障がい者への教育機会の確保についての認識を改め、その実現につとめるべきであると述べています。
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