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『The Last Mile in Ending Extreme Poverty』の発刊を記念し、ブルッキングス研究所とパネルディスカッションを開催

2015年8月27日

「世界の貧困を2030年までに撲滅するためには、平和・雇用・レジリエンスという3つの要素が重要だ」。JICAの加藤宏理事は、2015年7月23日にアメリカのワシントンD.C.で行われたパネルディスカッションでこう述べました。

 

議論する加藤理事(右から2人目)
議論する加藤理事(右から2人目)

このイベントは、JICA研究所とブルッキングス研究所の共同研究をとりまとめた書籍『The Last Mile in Ending Extreme Poverty』の出版に合わせて開催されました。

 

2015年9月、国連はミレニアム開発目標(MDGs)に続く開発アジェンダとして、2030年を目標年とする「持続可能な開発目標(SDGs)」を採択する見通しです。SDGsの第一の目標には、「すべての場所における、あらゆる形態の貧困の解消」が掲げられ、具体的な指標として「極度の貧困(1日1.25ドル未満で暮らす生活)の撲滅」が明記されます。この25年間、極度の貧困の解消は、世界中で急速に進みました。しかし、完全に撲滅するにはなお、多くの課題に直面しています。紛争は複雑化・長期化し、不況にもかかわらず構造改革は進まず、気候変動による自然災害が増加しています。

 

JICA研究所は2013年からブルッキングス研究所と共同で「世界の貧困と脆弱性」に関する研究を進めてきました。本書はこの研究の成果であり、加藤理事、ブルッキングス研究所のHomi Khara上席研究員およびLaurence Chandy同研究所研究員が編集しました。

 

イベントでは、Homi Kharas上席研究員が司会を務め、Chandy研究員、加藤理事、ブルッキングス研究所のRaj Desai非常勤上席研究員(ジョージタウン大学准教授)や世界銀行のAna Revenga・貧困対策担当シニアディレクターがパネリストとして登壇しました。

 

この中で、加藤理事は、「このまま貧困の解消が進めば、2030年までに目標を達成することも夢ではないが、過去の傾向から推定するだけでは問題がある」と述べました。これまでは、中国やインドといった大国が躍進していたため、アフリカをはじめとする他の国の停滞や後退が目立たなかったと指摘。「今後は、各国が貧困解消に向けた手立てを探るのはますます難しくなる。絶対的貧困率が徐々に低下する一方で、貧困を解消するためのコスト(限界費用)は上昇していく。"the last mile"の解消は容易ではない」としました。

 

出版された「The Last Mile」
出版された「The Last Mile」

Kharas氏は続いて、Revenga氏に、「2030年までに極度の貧困を撲滅し、低中所得国の所得の下位40パーセントの人びとに繁栄をもたらす」という世界銀行の目標についてコメントを求めました。Revenga氏は「極度の貧困を撲滅するには、アフリカをはじめ、最も困難かつ脆弱な地域で貧困を解消しなければならない。目標を達成するうえで、これが不可欠となる」と話し、脆弱な国家には「貧困を解消するための最も基本的な条件」が欠けていると付け加えました。

 

Kharas氏は政治学者のDesai氏に、「貧困を撲滅するために、政治的な協調が必要になるか」と尋ね、Desai氏は「政治がカギになるだろう。貧困を解消するには社会的結束に重きを置く必要がある」とし、「社会の中間層がもっと社会的支出の恩恵を受けられるようにする必要がある。富の再分配よりも拠出制度を基本とした社会的保護システムが必要だ」と答えました。

 

日本で貧富の差が比較的小さいことについて意見を求められた加藤理事は、「日本では、農村部と都市部にバランス良く投資することで、貧富の差を抑制してきた。これはアフリカなどの途上国でも有益ではないか」と述べました。そして、「アフリカ、特にその農村部では、農業への投資が著しく不足しているように見受けられる。これが農村部における極度の貧困と、国内の食糧価格の高騰につながり、賃金や競争力の低下を招いている」と課題を話しました。

 

パネリストによるディスカッションの後に行われた質疑応答では、約140人の参加者から、障害や気候変動、人口、教育等の政策について、さまざまな話題が出ました。

 

さまざまな種類の稲の生育を調べるタンザニアのセンター
さまざまな種類の稲の生育を調べる
タンザニアのセンター
(写真:久野武志/JICA)

気候変動が農業の生産性に与える影響についての質問に関して、加藤理事は、「レジリエンスの推進にあたっては貧しい者を取り残すことなくサポートすることを念頭に置くべきだ」と強調。「アフリカの農業が地球温暖化に対するレジリエンスを強化できるように、干ばつに強い品種などの新技術を活かした取り組みも進んでいる」とJICAが支援している取り組みも紹介しました。

 

また、会場からは「アフリカでは科学技術が軽視されており、科学技術の進歩が多くの先進国の成功の一因」と述べ、「科学技術にも同じように重きを置かなければ、アフリカは今後も貧しいままだ」との声があがり、パネリストに意見を求めました。これに対し加藤理事は、「科学技術に重きを置く必要があるが、あわせて雇用の確保にも力を注ぐことが重要である」と述べました。

ブルッキングス研究所の本セミナー紹介ページ

 

日時2015年7月23日(木)
場所アメリカ、ワシントンD.C.



開催情報

開催日時2015年7月23日(木)
開催場所アメリカ、ワシントンD.C.

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