JICA緒方研究所

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ASEAN域内でのスキル人材の移動をテーマに議論

2015年10月19日

JICA研究所は2015年10月2日、「ASEAN経済共同体におけるスキル人材の国際移動:展望と課題」をテーマに、JICA市ヶ谷ビルで、セミナーを開きました。

 

加藤宏理事
開会の挨拶を行う加藤宏JICA理事

東南アジア10カ国からなるASEANは、2015年内に経済統合することを予定しています。その実現に向けてこれまで、資本や物品の移動の障壁を取り除くという点で大きな成果を上げてきました。一方、人的資本の移動、特に「スキルの高い労働力の自由な移動」は計画より遅れています。スキル人材の自由な移動について、関係者が現状を把握し、実現を阻む障壁と解決策を議論するため、アジア開発銀行(ADB)と米国・ワシントンDCの独立系シンクタンクMigration Policy Institute(MPI)が中心の共同研究プロジェクトとして、会合や研究を実施してきました。

 

JICAは長年、ASEAN各国で、高等教育や職業教育の支援など、人材育成の取り組みを続けてきました。こうした背景を受けて、ADBとMPIが2015年5月11~12日にインドネシアのバリ島で共催した「ASEAN共同体内でのスキル人材の移動に関するハイレベル専門家会合」にJICA研究所の畝伊智朗所長が参加。9月28~29 日に同じくバリ島で開かれた「ASEAN域内でのスキル人材の移動についてのバリ会合」には加藤宏理事が出席しました。

 

9月のバリ会合では、ADBとMPIが共同で実施したスキル人材の域内移動に関する調査結果が報告され、スキル人材の移動を促進するための方策、特に技能資格の相互認証協定(MRA: Mutual Recognition Arrangements)の促進状況の確認や、円滑な実施に向けての障壁などが議論されました。また、民間セクターなど、多くのステークホルダーを巻き込む必要性や高等教育・職業教育のあるべき姿などについても広く議論がなされました。

 

Demetrios G.Papademetriou氏
Migration Policy Instituteの
Demetrios G.Papademetriou氏

ADBとMPIは、これらの会合や関連の成果を報告書(Issue paper)「Achieving Skill Mobility in the ASEAN Economic Community: Challenges, Opportunities and Policy Implications」としてまとめました。さらにその日本語版「アセアン経済共同体におけるスキル移動の実現:今後の展望と課題」が完成しましたので、今回のセミナーはこれを記念して開催されました。報告書の主な執筆者であるDemetrios G.Papademetriou氏(MPI)、Guntur Sugiyarto氏(ADB)、Dovelyn Rannveig Mendoza氏(MPI)が、報告書の主要な論点について説明しました。

 

今回のセミナーは、加藤理事による開会の挨拶で始まりました。その挨拶の中で加藤理事は、ASEAN全体の経済成長のためには、ASEANの中進国はいわゆる中進国の罠の克服が、低所得国は中進国として成長していくことが必要であり、これらのチャレンジのためにもスキル人材の移動は重要な課題であると述べました。

 

続けて、加藤理事は、これからは求められるスキルや知識は日本一国では自給自足できず、ASEANは日本の将来にとって非常に重要なスキルの資源であると述べました。スキル人材の移動の観点から日本とASEANとの今後の関係性にも言及し、スキル人材の移動が日本の将来にとっても重要となると指摘しました。

 

加藤宏理事
石倉洋子一橋大学名誉教授の司会のもと、
パネリストらが今後の展望と課題を議論

報告書の主要な論点について、Papademetriou氏は、「国内外の投資家は、さらなる投資をする前に、十分訓練・教育された人材がいるかどうかに注目する。教育を受けた労働力は中流階級を作り、消費者になり、市場としての魅力も増す」とスキル人材育成の重要性を指摘しました。一方、スキル人材の移動が進まない障壁として、(1)資格認証プロセスの複雑さ、(2)特定の職業を自国民に限定すると定めた憲法の条項や、複雑で曖昧な就労ビザ取得の要件や手順などといった国家レベルの障壁、(3)文化や言語、社会経済的な違いのため、域内の移動にあまり関心のない専門職が多いことを挙げ、「政府はより長期的な視点を持ち、労働者がASEAN共通の基準に従ったスキルを身に付けるための国家的な教育・訓練制度に投資すべきである」と主張しました。Mendoza氏は、MPIとADBの共同調査で明らかになったASEANの人的移動のパターンやスキル人材の移動状況などについて、Sugiyarto氏は、ASEAN域内でのスキル人材の移動がもたらす経済的恩恵について説明しました。

 

その後、石倉洋子一橋大学名誉教授の司会のもと、3人の発表者に広田幸紀JICAチーフエコノミストを加え、今後の展望と課題が討論されました。広田チーフエコノミストは、ASEANの特徴はその多様性で、域内の人の移動は各国に相互便益をもたらすとその統合の意義を評価しました。その上で、産業集積に基づき、国ごとに特定のスキル人材の雇用機会が高まる動きもみられると指摘。この分野でスキル人材の移動を考える際には、産業界との連携がますます重要となると発言。この分野でのJICAの具体的な協力として、域内と日本の大学間の連携強化と教育水準の向上、産業界との連携強化を目指すAUN/SEED-Netについても言及しました。

関連ファイル

Issue paper: Achieving Skill Mobility in the ASEAN Economic Community: Challenges, Opportunities and Policy Implications(PDF、958KB)

Issue paper: 「アセアン経済共同体におけるスキル移動の実現:今後の展望と課題」 (PDF、1.2MB)

発表資料:Papademetriou氏 (PDF、3.9MB)

発表資料:Sugiyarto氏 (PDF、806KB)

発表資料:Mendoza氏 (PDF、1.3MB)

日時2015年10月 2日(金)
場所JICA市ヶ谷ビル



開催情報

開催日時2015年10月 2日(金)
開催場所JICA市ヶ谷ビル

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