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出版記念セミナーで、アフリカの「緑の革命」について大塚教授らが講演

2015年11月5日

「米の栽培技術を小規模農家が身に付けるように指導がしっかり行われれば、サブサハラ・アフリカでの米の緑の革命は可能です」。2015年10月22日にJICA市ヶ谷ビルで開かれた『In Pursuit of an African Green Revolution』出版記念セミナーで、編者の一人である大塚啓二郎政策研究大学院大学教授は、こう述べました。

 

JICAは、2008年のTICAD IV(第4回アフリカ開発会議)のサイドイベントにおいて、アフリカにおける米生産を10年間で倍増することを目標としたイニシアティブ「アフリカ稲作新興のための共同体 (CARD: Coalition for African Rice Development)」を発表しました。CARDイニシアティブが、米の生産性向上や貧困削減にどのように貢献したかを実証分析するため、JICA研究所が取り組んできたのが、大塚教授を研究代表者とする研究プロジェクト「サブサハラ・アフリカにおける米生産拡大実証分析」です。

 

世界銀行のDonald F. Larson氏
世界銀行のDonald F. Larson氏

この研究成果と、世界銀行のDonald F. Larson氏のメイズの栽培に関する研究成果をまとめた書籍『In Pursuit of African Green Revolution』が2015年11月に出版されるのを前に、記念セミナーが開かれました。東京の会場に約40人が集まったほか、タンザニア、ガーナ、モザンビークのJICA事務所ともテレビ会議システムで接続し、大塚教授、Larson氏の講演を同時に配信しました。

 

まず、Larson氏が、小規模農家の生産性向上は、アフリカの貧困削減への取り組みに欠かせないものだとし、緑の革命が目指す好循環と、アフリカの状況について説明しました。好循環とは、小規模農家が農産物収入を増加させ、地方の収入が増え、地方の貧困が減る。また、増えた収入で教育、職業訓練、物的資本への投資が行われ、教育を受けた子どもたちの世代が非農業所得を獲得することでさらに高い所得を得られるようになる。一方、農作物の生産量が増えることで食糧価格が下がり、都市住民も恩恵を受け、都市での貧困も減っていく-といったものです。

 

Larson氏は、アフリカでも一部地方での米生産においては緑の革命の成功例が見られるが、それがスケールアップされているという確たる証拠はなく、アジアで見られた好循環も、アフリカではまだ見られていないと指摘します。その理由として、Larson氏は、日常の食生活で、主食である米や小麦などの占める割合が非常に高いアジアに対し、アフリカは米、メイズ、小麦、ソルガム、ミレット、イモ類など主食が多様なうえ、アジアと比べて灌漑農業が普及していないことを挙げました。

 

政策研究大学院大学の大塚啓二郎教授
政策研究大学院大学の大塚啓二郎教授

二人目の講演者の大塚教授は、アジアで見られたような顕著な緑の革命が起こっていない理由として、サブサハラ・アフリカの稲作の85パーセントを占める天水田への技術移転がうまくいっていないことと、品種や肥料の改良のほか、栽培技術の向上が十分でないことを挙げました。栽培技術とは例えば、あぜの設置や均平化、適切な時期の田植え、苗をまっすぐ植えることなどです。

 

メイズについては、具体的にケニアとウガンダの例を挙げました。成功例ともいえるケニアでは農家は飼料作物のネピアグラスを育て、改良された乳牛を飼育し、その糞尿からの有機肥料をメイズ畑に施肥し、窒素を固定化する豆類を間作しています。また、ハイブリット品種のメイズと化学肥料も使っています。高収穫品種と化学肥料を使用しているという点で、ケニアの農業システムはアジアの緑の革命に似ていると、大塚教授は言います。一方、ウガンダでは、これらの技術は全くと言っていいほど使われておらず、その結果、メイズの収穫量はケニアのほぼ半分となっていると指摘しました。

 

質疑応答の時間では、なぜアフリカにアジアモデルが必要なのかという質問があり、大塚教授は「日本も他国から学ぶことによって成長できており、他の東アジアの国々も同様の経験をしている。このような学びが重要である」と答えました。

 

日時2015年10月22日(木)
場所JICA市ヶ谷ビル



開催情報

開催日時2015年10月22日(木)
開催場所JICA市ヶ谷ビル

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