JICA緒方研究所

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公開シンポジウム「TICAD VI in Nairobi: スマート・ドナーとして何を発信するのか?」でJICA研究所によるアフリカ研究について発表

2016年2月18日

発表する大塚教授

日本学術会議とJICAによる公開シンポジウム「TICAD VI in Nairobi: スマート・ドナーとして何を発信するのか?」が2月12日、JICA市ヶ谷ビルの国際会議場で開催されました。2016年7月、「第6回アフリカ開発会議(TICAD VI)」がケニアのナイロビで開催されます。1993年以来、過去5回日本で開催されてきたTICADが、初めてアフリカで開催されることになります。この機会に、日本が発信するべきメッセージとは何か。JICA研究所の研究プロジェクトにかかわっている大塚啓二郎政策研究大学院大学特別教授、不破信彦早稲田大学教授が、アフリカでの取り組みに関する発表を行いました。

大塚教授は「アフリカ稲作振興のための共同体(CARD)の現状と課題」について発表しました。CARDはJICAが主体となって2008年に立ち上げたイニシアティブで、2018年までの10年間でアフリカのコメ生産を倍増させることを目指しています。大塚教授は、順調に目標達成に向かっているとした上で、「アジアで成功した日本の稲作支援『緑の革命』をアフリカでも成功させるには、その要因が改良種子と化学肥料にあるという誤解をとく必要がある」と訴えました。そして水田の畔(あぜ)の整備や均平化などの栽培技術の普及が生産性向上の鍵であり、正しい栽培技術の普及のためには、農業普及員と農民の研修による人材育成が重要であることが実証研究によって明らかであると説明しました。さらに「人材育成に続いて、灌漑(かんがい)などのインフラ整備、資金の貸付支援、機械化支援という一連の仕組みを確立していく必要がある」と語りました。

発表する不破教授

不破教授は「小規模園芸農民組織強化計画(SHEP)アプローチ:その意義と発展方向性」について説明しました。SHEPはケニアで2006年に始まったJICAの技術協力プロジェクトで、農民の組織化や研修を通じて、小規模農家の販売力を高め、生計の工場を目指す取り組みです。ケニアで始まった取り組みは現在第3期に入り、アフリカ各国で広域展開しています。SHEPの特徴は、「食べるため」から「稼ぐため」のビジネスとしての農業にあります。また農家が自ら気づき、考え、行動するための仕掛けは『カイゼン』のアプローチでもあり、日本の技術協力の現場から生まれた知見の結集といえるものです。2015年までの受益者累計は、約1万5,000農家に及び、園芸所得は平均約2倍になっています。

SHEPの研究では、その効果を科学的に実証するため、厳密な効果測定を行うための統計手法RCT(ランダム化比較試験)を導入しています。不破教授は「成功したプロジェクトの知見を公共財として広く世界に共有することが重要であり、国際援助コミュニティーに影響を与えるには、RCTを活用した厳密なインパクト評価を行うことが効果的である」と強調しました。

大塚、不破両教授らは、アフリカ開発は人材育成から着手し、その後にインフラ投資、さらに製造業の場合には直接投資までの計画的支援を目指すべきであり、日本の支援の有効性を世界に発信するためには、研究者と実務家が密接な連携が不可欠であると強調しました。

SHEP参加農家の取り組み

質疑応答のなかで大塚教授は、途上国の経済を効果的に発展させる開発戦略に関しては、いまだわからないところが大きく、日本の研究者と実務家が協力すれば、世界をリードできるのではないかと語りました。また、不破教授は国際的な議論に耐え得る科学的証拠を具体的にどのようにそろえてくかが重要ではないかと話しました。

シンポジウムには、官民の代表として、民間企業や外務省の関係者、JICAの北岡伸一理事長も登壇し、一般参加者も交えての議論が行われました。シンポジウムでは、産官学の連携を強化することにより、効果的な国際協力に向けた日本からの発信につなげていくことへの期待が確認されました。

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