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CSISとの共同研究「途上国の持続可能な開発と貧困削減に寄与するイノベーション(Transformative Innovation)」1年目の研究成果をセミナーで発表

2016年6月16日

途上国が経済格差や成長の鈍化といった新たな課題に直面する中、国際社会では「質の高い成長」に寄与するテクノロジーやイノベーションに注目が集まっています。そのカギとなるのが、社会システムレベルのイノベーション"Transformative Innovation"です。

北岡伸一JICA理事長

途上国の開発におけるTransformative Innovationの将来性を考察するために、米国の戦略国際問題研究所(CSIS)とJICA研究所は2015年7月、「途上国の持続可能な開発と貧困削減に寄与するイノベーション(Transformative Innovation)」をテーマにした2カ年の共同研究を立ち上げました。初めての共同研究となる1年目の成果を報告するとともに、Transformative Innovationにおける2つの重要な取り組み、イノベーション・エコシステムとスマートシティについて議論するため、2016年6月8日、JICA市ヶ谷ビルで公開セミナーを開催しました。

開会の挨拶に立った北岡伸一JICA理事長は「科学技術とイノベーションが国際社会の注目を集めるこの時期に、技術革新について世界をリードしてきた日米が共同研究を行うことは意義深い」と述べました。

小宮山宏・三菱総合研究所理事長

次に、三菱総合研究所理事長の小宮山宏氏(プラチナ構想ネットワーク会長、東京大学第28代総長)が基調講演「プラチナ社会に向けたイノベーション-GDP追求からのパラダイムシフト-」を行いました。小宮山氏は、尊厳と自由を兼ね備えたクオリティ・オブ・ライフ(QOL)を実現する21世紀のビジョンとしてプラチナ社会構想を提唱し、QOL を重視することで結果としてGDP も成長するという発想の転換が必要だと述べました。

「スマートシティ」をテーマにしたセッション1では、北野尚宏JICA研究所長がファシリテーターを務め、パネリストとしてCSISのダニエル・F・ルンデ氏(Director, Project on Prosperity and Development)、インドネシア・ジャカルタ市のスマートシティ・マネジメントユニットのセティアジ氏 、小宮山宏氏、亜細亜大学都市創造学部の岡村久和教授、そして慶應義塾大学理工学部の伊香賀俊治教授を迎えました。

「スマートシティ」をテーマにしたセッション1

セッションの冒頭では、ルンデ氏が共同研究の第一年次報告書を紹介しました。ルンデ氏は「Transformative innovationは、社会システムレベルでの変革をもたらしうるものであり、途上国の開発に大きな影響を与えるだろう」とコメントしました。また、世界人口の50%以上が都市部に住み、アジアやアフリカを中心に急速な都市化が進んでいる現状を説明しながら、スマートシティのコンセプトとして、(1)効果的なガバナンス、(2)質の高いインフラ、(3)社会サービスの充実、を紹介し、この3つの要素を実現するための決め手は技術革新であることを強調しました。

続いて、パネリストのセティアジ氏がジャカルタ・スマートシティの取組みを発表し、システムが政府と市民を結び付け、政府が市民の声に耳を傾けてきた経緯を紹介しました。岡村教授は、世界各国におけるスマートシティの目標や、スマートシティの定義がどのように変遷してきたかについて解説しました。そして伊香賀教授は、スマートシティの評価に利用できるCASBEE(建築環境総合性能評価システム)が世界中の都市でどのように活用されているかを紹介しました。

「イノベーション・エコシステム」がテーマのセッション2

「イノベーション・エコシステム」をテーマにしたセッション2も、北野所長がファシリテーターを務め、パネリストにはルンデ氏、慶應義塾大学環境情報学部の田中浩也教授、九州大学大学院経済学研究院の実積寿也教授、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターの渡辺智暁主幹研究員、FabLab Asia Foundationの徳島泰氏、JICAの内藤智之国際協力専門員を迎えました。

初めにルンデ氏がイノベーション・エコシステムについて、「社会や市場、個人のニーズに応える新しいアイディアの創出を後押しする環境」と評し、このような新しいアイディアを商品化する中で、政策立案者、研究者、民間の連携や協働が促され、イノベーションを支える人材、資金、インフラ、政策が生み出される、と強調しました。イノベーション・エコシステムにつながる取り組みの一つとして、3Dプリンターやレーザーカッターなどを備えた市民向けのデジタル工房「ファブラボ」を挙げ、当時、青年海外協力隊であった徳島氏が設立に関わったフィリピン・ボホールのファブラボの事例を紹介しました。

続いて、田中教授は「ファブラボはコミュニティを育むローカルエンジンであり、世界的なネットワークでデジタルデザインデータを共有するグローバルエンジンでもある」と語りました。実積教授は、ファブラボ間で地域に根差したニーズやノウハウ、体験を共有し、成功につなげることが重要だと力説しました。渡辺主幹研究員は、ファブラボで生まれた製品やサービスの利益、外部からの資金援助を、ファブラボの持続可能な運営に活かす仕組みが重要だと主張しました。徳島氏は、ファブラボが途上国にもたらす3つの機会(貧困地域の開発、他の国際協力活動との連携、ファブラボ・ネットワークを通じた国際協調)について説明し、内藤専門員はJICAが立ち上げに関わったファブラボ・ルワンダの事例を紹介しました。

北野所長は閉会の挨拶で、「ファブラボのコンセプトは、小宮山氏が言うところの尊厳ある社会、持続可能な開発目標(SDGs)が目指すインクルーシブな社会につながるだろう。2年目の共同研究に向けて有益な意見交換ができた」と総括しました。

このイベントに先立ち、CSISとJICA研究所は2016年6月1日と2日に米国ワシントンでもこの成果報告書を発表する公開イベントを開催しました。

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