Transformative Innovation for International Development: Operationalizing Innovation Ecosystems and Smart Cities for Sustainable Development and Poverty Reduction
インターネットに代表されるように、近年の技術革新は新しい産業を創出し、世界を大きく変えています。社会システムレベルのイノベーション(Transformative Innovation)は、従来の価値観を大きく転換させるものであり、開発途上国の経済成長のチャンスともなりうるものとして期待されています。本報告書は、開発に貢献するイノベーションをテーマにした米国の戦略国際問題研究所(CSIS)とJICA研究所の共同研究の第1年次研究成果の報告書であり、「イノベーション・エコシステム」と「スマートシティ」に関する2つのアプローチを分析し、開発分野においてTransformative Innovationを実現するための提言を行っています。
イノベーション・エコシステムとは、社会、市場、個人が求めるイノベーションを創出する環境全体を総称する言葉です。開発途上国では、イノベーションを実現するための人材、資金、インフラ、政策といった要素のすべてもしくは一部が欠けていることが多いものの、本報告書では、イノベーション・エコシステムが構築される「触媒」となりうるものとして、3Dプリンターなどを備えた市民工房「ファブラボ」について分析しています。具体的には、青年海外協力隊が設立にかかわったフィリピンの「ファブラボ・ボホール」の事例を取り上げています。本報告書では、ファブラボを公共財と捉え、長期的な財政収入を可能とするためのキャパシティ・ビルディングの必要性を強調しています。
世界、とくにアジアやアフリカで都市化が進むなか、新技術の活用により持続可能でエネルギー効率がよく、環境に配慮した経済成長の促進が期待されています。本報告書では、スマートシティは、その中にあって、効果的なガバナンス、質の高いインフラ、社会サービスの3要素を充実させる概念と紹介しています。
本報告書では、インドネシア・ジャカルタ首都圏の事例について分析しています。ジャカルタ首都圏では、ジャカルタ特別州政府が庁舎内にスマートシティ・ユニットを設置して、市民からの要求に直接応えているほか、同ユニットが州行政に関するビッグデータを収集して、公共サービスの改善につなげています。こうした取り組みを支援する二国間援助機関や国際機関の役割に関連して、JICAが円借款を供与する都市高速鉄道システム(MRT)事業と、炭素クレジットのスキームの1つであるインドネシアと日本との二国間クレジット制度(JCM)事業について、新技術導入という視点から取り上げています。
イノベーション・エコシステムやスマートシティは、従来の開発協力にはない新しいコンセプトです。本報告書は、その国に合った技術を用いて継続的に実施することが可能であれば、技術革新は経済成長を通じて開発と貧困削減を実現できると結論づけるとともに、開発協力の実務家に対して認識の変革を求めています。
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