JICA緒方研究所

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ゴメズ研究員が人道学会で被災地・被災者中心の危機対応の重要性を発表

2016年5月19日

人道危機に関する研究者のネットワーク、International Humanitarian Studies Association(IHSA)の第4回大会が、2016年3月5日から8日まで、エチオピアのアジスアベバで開かれ、JICA研究所のゴメズ・オスカル研究員が参加しました。ゴメズ研究員は、現在、取り組んでいる研究プロジェクト「二国間援助機関による人道危機対応に関する比較研究」および「東アジアにおける人間の安全保障の実践」の成果を踏まえ、人道危機対応でのコンティニュアム(continuum: 救援、復興、開発の連続的実施)と被災地・被災者(注1)を中心に据えて危機対応を行っていくことの重要性を訴えました。

台風ヨランダの被害を受けたフィリピンでの復興支援

IHSAは、2年に1度大会を開いています。今大会では、「人道危機と開発」、「紛争と人道主義」、「気候変動と人道研究」、「新たな連携、技術と危機対応」の4つの大きなテーマのもと、4日間にわたり様々なパネルディスカッションが行われました。

ゴメズ研究員は、「人道危機と開発」をテーマにしたパネルディスカッションの一つ「人道活動のガバナンス:地球規模、地域、国内のアプローチ」で、コンティニュアムについて発表を行いました。

ゴメズ研究員は「人道危機への対応は救援だけでは不十分であり、コンティニュアムが重要であることは関係者共通の理解である。しかしながら、その実現が困難な原因の一つは、コンティニュアム概念の不明瞭さ、共通理解の欠如にある」と指摘し、コンティニュアム概念の整理を図りました。

ゴメズ研究員は、人道支援分野で一般的に議論されてきたコンティニュアム概念を、自然災害に関わる防災分野、暴力的紛争に関わる平和構築分野における同種の概念と比較しました。その結果、これら3つのコンティニュアム概念には、危機対応に関わるアクターを意識したものと、推移する支援段階(フェーズ)を意識したものの2つの考え方が並列して存在していることを示しました。そのうえで、人道危機対応のプロセスは段階的に移行するものではない(non-linear)という認識がアクターの活動に十分に反映されていないこと、人道支援分野における概念には予防が明確に位置づけられていないことなども明らかにしました。

そして、コンティニュアムの実現に向けて、アクター間・アクター内連携だけでは十分でなく、被災地・被災者を中心に据えることが最も重要であると提起しました。

また、ゴメズ研究員は、「新しいパートナーシップ」をテーマにしたパネルディスカッションの一つ「被災地・被災者主導の人道危機対応:目指すべき姿か幻想か」でも、東日本大震災を事例として、被災地・被災者中心の危機対応を行っていくことの重要性を訴えました。

人道学会の参加者たち

ゴメズ研究員は、東日本大震災での支援を、人・物資・資金という伝統的支援、原発事故対応やその他の専門的支援(Non-Traditional aid)、個人・企業・NGO経由などの「拒絶できない支援」(Non-Rejectable aid)の3つの形態に分けて分析しました。その結果、伝統的な支援については、救助や物資提供が十分な効果を上げなかったと指摘しました。「拒絶できない支援」については、日本赤十字社やジャパン・プラットフォーム(注2)などが仲介することによって、被災地・被災者のニーズに適合させることができたと分析しました。しかし、拒絶できないという支援のあり方は、危機時におけるコミュニケーション(risk communication)とともに、今後の課題だとしました。

ゴメズ研究員は、「支援者中心の支援をしてしまうと、被災地・被災者中心の危機対応が実現しない。危機対応では被災地・被災者のエンパワーメントなど、現地を中心に行うことが重要だ。さらに、最も重要なのは、被災地・被災者が不必要な支援を『拒絶する権利』を持つことだ」と話しています。


(注1)本記事でいう被災地・被災者とは、自然災害の被災地・被災者にとどまらず、暴力的紛争に見舞われた地域やその被害にあった人を含みます。
(注2)NGO、経済界、外務省によって設立された中間支援NPO。東日本大震災では、NGO/NPOに対する助成やNGO/NPOの連携、行政とのパイプ役を務めました。

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