JICA緒方研究所

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キルギスでのインクルーシブビジネスについて下田研究員が研究成果と課題を発表

2016年6月16日

国際人類学民族科学連合(The International Union of Anthropological and Ethnological Sciences:IUAES)の2016年中間会議(Inter-Congress 2016)が5月4日~9日、クロアチアのドゥブロブニクで開催されました。JICA研究所の下田恭美研究員が人類学・環境委員会による分科会「What is "sustainable" in rural development?」(IUAES Commission on Anthropology and the Environment)に参加、キルギスでの事例について、自身の研究案件「インクルーシブビジネスの社会・文化的影響に係る研究」の中間分析結果を発表しました。

フェルト加工の作業

「インクルーシブビジネスの社会・文化的影響に係る研究」は、低所得者層をビジネスにおける価値連鎖(バリューチェーン)に取り組むことを通じて開発課題の解決を目指すインクルーシブビジネス(IB)において、キルギスとラオスを対象に低所得者層、および多国籍企業とその従業員が受ける社会・文化的側面の影響を考察することを目的としています。

「Can business contribute to the sustainability of rural development?」の発表で下田研究員は、研究の背景、目的、手法、およびキルギスの地方における男女の役割を簡単に説明した後、JICAがキルギスで実施している「一村一品アプローチによる小規模ビジネス振興を通じたイシククリ州コミュニティ開発プロジェクト」を紹介しました。2015年11月から12月にかけて行った現地調査の中間分析結果として、30代、40代、50代の年代の異なる女性フェルト生産者の例を挙げ、プロジェクトによって生産者の自尊心が醸成され、それがビジネスを継続させるよい循環を生んでいる状況を報告しました。一方で、仕事の責任が本人や家族にストレスを与えていることや、「短期的な仕事」という前提で家族(夫)の支えを得ている現状を説明し、プロジェクトが仕事と私生活の微妙なバランスの上に成り立っていることを示唆しました。

生産者たちが参加したセミナー

発表後、参加者からはいくつかの質問が上げられました。その中で「sustainability」の定義についての質問については、下田研究員は本発表では「ビジネスとしてのsustainability」と回答しましたが、この定義については、全体のディスカッションにおいても議論となり、今後議論を深めていく必要性が確認されました。

下田研究員が参加したパネルでは、他に、ドゥブロブニク近郊でオーガニック農法を行う小規模農家の現状と問題、若者の環境配慮行動における個人の指向性と主観的健康観の変化、農業の近代化がもたらした弊害を克服するためにオーガニック農法を導入・実践したインドのマハーラーシュトラ州の事例、青森のニンニク生産におけるエコシステムの変遷などについての発表が行われました。

また、会期中に同時開催された各国人類学会の代表者が参加する人類学会世界協議会(World Council of Anthropological Association: WCAA)では、人類学専攻者の進路として、開発コンサルタントや民間企業といった実務の世界で活躍する学生が増えていることが報告されました。


下田研究員は所感として、本会議への開発援助機関からの参加は少数ではあったが、保健、教育、環境、災害、移民・難民、開発と投資、障害、開発理論と実践など、開発援助が抱える課題と密接に関連する分科会もあり、開発援助の実務者と、途上国を研究対象とする人類学研究者との対話や交流を深める場として積極的に参加し、相互理解を深めていく必要感じた、と述べています。

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