2012年8月13日
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このシンポジウムは、研究所が2008年の設立当時から取り組んできた研究領域である「成長と貧困削減」の一環として、「アフリカにおける民族の多様性と経済的不安定」の研究結果に基づいた書籍を紹介するのと同時に、アフリカの経済不安定をもたらす要因を解消・軽減するための政策、制度のあり方に関する研究の成果を発表することを目的に開催されました。
この研究では、ケニア首相府経済アドバイザーである神戸大学の日野博之教授を代表に、経済学、政治学、文化人類学、歴史学などの多様な学問領域から研究者が参加し、アフリカにおける民族の多様性と経済成長の間に見られる負の相関関係のメカニズムを包括的に研究して、多様な民族を抱えたアフリカ社会のおける経済成長実現のための方策を探ってきました。本書は、その研究成果の第一弾として、ケンブリッジ大学出版より7月12日に発刊されました。
この研究プロジェクトでは、過去4回のワークショップを、日本(神戸大学)、米国(イェール大学)、ケニア(ナイバシャ)、英国(オックスフォード大学)で開催しています。そして今回最後となる第5回ワークショップを東京で7月23日、24日と行った結果も踏まえて、公開シンポジウムでは、本プロジェクトにおける政策的な含意についても紹介されました。
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神戸大学日野博之教授(左) イェール大学グスタフ・ラニス名誉教授(中) ケンブリッジ大学ジョン・ロンズデール名誉教授(右) |
まず、本書の序論を担当したイェール大学グスタフ・ラニス名誉教授は、アフリカの経済的不安定さを増す要因として、低い人口密度、天然資源の不公平な分配や貿易取引の変動、また政治体制の頻繁な交代などを挙げ、その解決として「天然資源の輸出収入を、インフォーマル、フォーマルセクターともに裨益するインフラの建設に充当し、経済活動を活発化する努力が大切であり、いかにしてグループ間の信頼の欠如に対処していくか」について述べました。
第一章を担当したケンブリッジ大学ジョン・ロンズデール名誉教授は、「民族の多様性それ自体は、問題ではなくむしろ人的資源としても力になる」と強調しました。また、アフリカの植民地時代から今日に至るまでの民族と国家の歴史を説明しながら、貧困が増すと民族間の競争が激化することを指摘し、昨今では新たな問題として、農村から都市への人口移動や土地所有をめぐる対立についても言及しました。
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オックスフォード大学 フランシス・スチュワート名誉教授 |
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ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス タンディカ・ムカンダウィレ教授 |
—世界の学者やジャーナリストによるアフリカの多民族性の解釈は、誤解がベースにあり、固定されたアイデンティティとしてしか見ておらず、民族性の理解ができていない。この書籍は、アフリカに対する誤解を解くためのガイドとなる。民族性を計測すること自体が可能かどうかの疑問も含めて、今後のアフリカでの政策や研究分野の将来の方向性を示している点は評価できる。
—この書籍は、民族性と経済発展に関して効果的で慎重なアプローチを提供している。現在のアフリカは、経済、民主化、人口、都市化のすべての点において移行期を迎えており、これらと民族性が相互に影響し合っている。民族性をアフリカの経済発展を阻む唯一の要因とみるのは間違い。政府のガバナンスの負の影響であり、民族そのものの存在が問題ではない。
日野教授はこの書籍のメッセージとして、「民族性とは何か、また民族性の意味合いがどのように経済的特性に影響を与えるのかを提示し、その解明には歴史学者、経済学者、人類学者、また法律学者間の対話が不可欠であり、学際的な協力によって複雑な主題の理解が達成される」と締めくくりました。
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著名なコメンテーター、プレゼンテーターが参加 |
後半のセッションでは、「アフリカにおける公正な成長の実現に向けて—政策・制度改革に向けた提言」のテーマでのパネル討論が行われ、ガーナ大学アーネスト・アリエーティー副学長や著者の一人であるカナダのクイーンズ大学ブルース・バーマン教授、マサチューセッツ工科大学ダニエル・ポズナー教授、そしてタンザニア銀行ベノ・ンドゥル総裁が登壇しました。その結果、アフリカの経済開発に関連した幅広いテーマでの議論が行われ、以下のような提案が提示されました。
—アフリカでの貧困問題を解決するには、土地所有制度の改革が必須であり、土地所有者を対象とした土地銀行のアイデアを提案する。
—公共財 サービスの提供は、国にその権限を集中させず、地方への権限移譲が必要である。
—天然資源をめぐっては政府関係者の汚職の問題があり、水平的不平等だけでなく、垂直の不平等もあることから、天然資源をグローバルな資源として考えることが大切で、そのためのグローバルなガバナンスが重要である。
—若者の農業離れと同時に起こっている都市への移住と高い失業率を考慮し、彼らに仕事の機会をまず創出し、そのための技術習得を考慮した職業訓練や起業のための支援を通した、若者のエンパワーメントが大切である。
最後に、神戸大学経済経営研究所所長の浜口伸明教授からは、「多様性そのものは、経済を活性化する要因であるにもかかわらず、これまでの経済学では多様性を有する社会の発展について十分な考察を行ってこなかった。この研究を基に民族多様性の経済学が今後の重要でかつ先端的な研究領域であることを学んだ」と閉会の辞を述べました。
ムービー・コメンタリー
・Prof. Gustav Ranis / Yale University
・Prof. John Lonsdale / University of Cambridge
・Prof. Frances Stewart / University of Oxford
日時 | 2012年7月25日(水) |
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場所 | 東京、国際文化会館 |