『Adaptive Mediation and Conflict Resolution: Peace-making in Colombia, Mozambique, the Philippines, and Syria』

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1990年代以降、調停と紛争解決のプロセスは、多くの場合、まず停戦合意を結んで戦闘を終わらせ、次に、より包括的な和平合意を通じて紛争後の段階へと移行する、自由主義的な平和構築のための介入の影響を受けてきました。概して、この時期の和平協定は、紛争当事者の価値観や状況に応じた関心というよりも、調停者の自由主義的な平和の価値観を特徴としていたと言えます。こうした和平協定のほとんどは同様の論理と構造を持ち、それらは直線的、段階的、規範的、個人主義的な傾向性を持つ決定論的なモデルに由来するものでした。現実には、ほとんどの場合、紛争当事国のアクターはこうした調停プロセスに関する権限がなく、第三者がもたらす形での紛争の転換と否応なしの調停が進んでいました。その結果、調停プロセスが完了して間もなく、頻繁に緊張状態が再発する事態となっています。こうした状況から、調停と平和創造に対してこれまで主流となってきたアプローチでは、刻々と変化する紛争に効果的に対処できないという認識が強くなっています。そして、国際的に調停者が活用でき、平和創造の手法を強化できる新たなアプローチを探ることへの関心が高まっています。

本書は、現代の紛争解決と平和創造における取り組みの文脈から、自由主義的な和平調停やその他の既存のモデルによる調停を代替するアプローチとして、適応的調停を提示しています。適応的調停は、複雑性理論を基盤とした調停アプローチであり、不確実で予測困難な極めて変化の激しい紛争に対応できるように構築されたものです。また、ファシリテーション型の調停プロセスであり、紛争の状況に応じて紛争当事者自身によって合意内容が形成されます。長期にわたり再発する紛争では、持続的な停戦の確立が難しく、紛争地の状況に合致した実用的なアプローチを採用することが重要だからです。さらに本書は、適応的調停の理論的枠組みと、現代の武力紛争で調停者が直面する複雑性や不確実性に対処するための実用的な紛争解決手段の両方を示すことで、調停をめぐる複雑かつ変化し続ける状況に対して重要な示唆を提供します。

本書の4つの事例研究は、全て適応的調停の仮説を裏付けるものです。この仮説は、自立的・持続的な和平合意を目的とする場合、調停者はその役割をプロセスの円滑化に限定し、外部関係者の利害や意図から紛争当事者を守り、彼らの自己組織化の能力を最大限に高めるようなプロセスを促進し、現地の状況に根ざした合意の形成を支援すべきというものです。シリアの事例では、いくつかの重要な転換点となりえた場面で、外部の干渉が当事者の自己組織化の能力を妨げ、経験豊富な調停者も当事者自身も紛争終結への道筋を探ることができなかったことが分かりました。対照的に、コロンビア、モザンビーク、フィリピンでの調停の経験からは、外部の調停者による想定や利害、偏見によらず、当事者間(または当事者と関係のある中立的立場の者)で紛争分析を共有し、選択肢を特定し、合意への道筋を明らかにする活動に参加すればするほど、状況に沿った現地の視点や意見が結果に反映されやすいことが明らかになりました。適応的調停では、こうした紛争当事者による自己組織化のプロセスが生まれることが自立的・持続的な和平の実現に不可欠だと考えています。

本書はオープンアクセス書籍で、JICA緒方貞子平和開発研究所の研究プロジェクト「持続的な平和に向けた国際協力の再検討:適応的平和構築とは何か」の成果として発刊されました。

編者
セドリック・デ・コニング、 武藤 亜子ルイ サライヴァ
発行年月
2022年3月
出版社
Palgrave Macmillan
言語
英語
ページ
192ページ
関連地域
  • #アジア
  • #中南米
  • #アフリカ
  • #中東
  • #欧州
開発課題
  • #平和構築
研究領域
平和構築と人道支援
研究プロジェクト