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世銀・JICA共同セミナー:脆弱性・紛争・暴力(FCV)戦略の進捗と連携

2023.05.29

脆弱性・紛争・暴力(FCV: Fragility, Conflict, and Violence)は、低・中所得国における極度の貧困撲滅に対する取り組みを脅かす重大な開発課題です。2023年2月21日、世界銀行と国際協力機構(JICA)が合同セミナーを開き、開発を妨げるFCVの発生頻度や深刻度の軽減について、これまでの取り組みを振り返りました。セミナーでは世界銀行東京事務所の大森功一上級対外関係担当官がモデレーターを務め、初めに今回の議論の流れや登壇者を紹介しました。

FCVにおける世界銀行グループの取り組み

世界銀行のスーキーナ・カーンFCV担当ディレクターが基調講演を行い、紛争問題の規模と推移を概説しました。カーンFCV担当ディレクターによると、紛争をめぐっては、発生件数の増加だけでなく長期化も確認されています。新たな紛争の発生よりも過去の紛争の再発が多くなり、その平均期間は1990年代の16年から2020年には30年超へと倍近くに延びました。

世界銀行のスーキーナ・カーンFCV担当ディレクター

FCV問題は中所得国よりも貧しい国で生じやすい傾向にあると考えられがちですが、ここ10年は中所得国での事例数が低所得国を上回っています。そのため、極度の貧困を緩和するために理解する必要がある社会の脆弱性が、経済成長に覆い隠される可能性があります。世界銀行グループは2020年に、経済・社会的な脆弱性や紛争、暴力の要因・影響への対処と、危険にさらされやすく、社会から取り残されている人々に向けたレジリエンス構築を目指し、初のFCV戦略を作成しました。カーンFCV担当ディレクターは、取り組みに必要な4つの戦略的課題として、不安定な情勢に対する世界銀行の適応力向上、レジリエンスと危機への備えに対する投資、中所得国におけるFCV問題への対応、民間セクターの参画を促すリスク軽減措置の活用を挙げました。

恐怖と暴力のない平和で公正な社会の構築

続いて、JICAガバナンス・平和構築部 平和構築室の室谷龍太郎室長が、JICAのFCV問題に対する3つのアプローチとして、紛争予防に向けたレジリエントな国家・社会の構築、地方行政に焦点を当てた能力開発とコミュニティーとの信頼構築、人道と開発と平和(HDP: Humanitarian-Development-Peace)ネクサスの推進を挙げ、概要を説明しました。室谷室長はHDPネクサスについて、難民に寛容な政策を維持するウガンダの事例を紹介しました。同国での稲作能力向上を目指すJICAの協力は地元住民と難民の両方を対象とし、そのどちらにも恩恵をもたらしました。難民が稲作研修を受けることで、人道支援に頼るだけでなく、自立し、生活・生計を自ら改善することが可能になります。また、室谷室長は、さまざまな脆弱な状況における脆弱性分析の共有や事業での協働を通じ、FCVにおいて世界銀行と連携していきたい考えを示しました。

JICAガバナンス・平和構築部 平和構築室の室谷龍太郎室長

FCV対策のための世界銀行とJICAの連携

次に、JICA中東・欧州部の松永秀樹部長が、ウクライナで生じているFCV問題の概要を説明しました。ウクライナ難民は現在までに欧州全土で約790万人に達し、さらに600万人が国内避難民となっています。JICAは世界銀行と連携し、緊急経済復興開発政策借款によってウクライナを支援してきました。松永部長は中東におけるFCVの概況にも言及し、国内避難民670万人、難民660万人を発生させているシリア危機について論じました。また、国際譲許的融資制度(GCFF: Global Concessional Financing Facility)のようなプログラムを通じた世界銀行とJICAの連携について、詳細を取り上げました。

JICA中東・欧州部の松永秀樹部長

脆弱な紛争影響下における適応的平和構築

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)の武藤亜子上席研究員(当時)は、紛争解決や平和構築のための新たな国際協力の在り方を探る研究プロジェクト「持続的な平和に向けた国際協力の再検討:適応的平和構築とは何か」を紹介しました 。同プロジェクトでは、持続的な平和構築を目指す新たなアプローチ、すなわち適応的平和構築について考察しています。適応型アプローチの前提は、平和が自立的に持続するには、平和を促進・維持するレジリエントな社会機構が社会内部から生じなければならない、というものです。国際的なアクターにできるのは、紛争調停と平和構築を支え、現地の能力を最大限に引き出すプロセスを促進することです。同プロジェクトの成果として、これまでに『Adaptive Mediation and Conflict Resolution: Peace-making in Colombia, Mozambique, the Philippines, and Syria』『Adaptive Peacebuilding: A New Approach to Sustaining Peace in the 21st Century』という2冊の学術書籍が発刊されています。

JICA緒方貞子平和開発研究所の武藤亜子上席研究員(当時)

モザンビークにおける紛争の適応的調停と適応的平和構築

JICA緒方研究所のルイ・サライヴァ研究員(当時)は、モザンビークでの発展的平和構築アプローチに関する自身のケーススタディーについて説明しました。サライヴァ研究員によると、紛争調停と平和構築に対する適応型アプローチは、外部から課された理念を原動力とするこれまでの試みよりも良好な成果が示されています。平和が自立的に持続するには内発性が必要であり、平和構築プログラムには自己組織化とレジリエンスを促進することが求められます。国際的な平和構築アクターが適応型アプローチを通じて持続的な平和に貢献し得る方法 については、聖エジディオ共同体やアガ・カーン開発ネットワークのように現地化した国際NGOが実例となります。この点は、より全体的な平和構築アプローチの一部となっています。

JICA緒方研究所のルイ・サライヴァ研究員(当時)

カーンFCV担当ディレクターはパネリストらの発言後、世界銀行が抱える社会・政治的分野での活動の制約は、この分野で比較優位を持つJICAのような二国間組織と補完しあいながら解消することができるとし、FCVプログラムにおける両者の連携が重要だと話しました。

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