JICA緒方研究所

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ワーキングペーパー

No.91 Toward a Theory of Human Security

しばしば曖昧であるとの批判はなされるものの、「人間の安全保障」は、世界の平和、開発、外交をめぐる議論において重要な地位を占めてきた。「貧困と絶望から免れ、自由と尊厳のもとに生きる権利」(UN Resolution A/RES/66/290)というような広義の定義の有用性を指摘しつつ、本論文は、人間の安全保障のさまざまな側面を体系的に検討する学際的理論枠組み––人間の安全保障への脅威の発生システム(物理、生命、社会)に基づく分類、人間の安全保障への脅威発生の因果関係、脅威対応への手段、人間の安全保障確保のための主体の問題––を提示する。人間の安全保障に対する脅威の源泉としての三つのシステム分類(物理システム、生命システム、社会システム)は、(1)物理学・化学に基礎をおく諸科学や工学、(2)生物学・生態学に基礎をおく諸科学、(3)社会科学の学問分野の区別に対応している。人間の安全保障に関する望ましい理論は、脅威発生のメカニズムに関して、これらの多くの学問分野の知見に依存しなければならない。それに加え、人間が同時に物理的、生命的、そして社会的存在であることを念頭に、三つのシステム間の相互作用についての探究を進めなければならないと本論文は論じる。社会システム内での人間の安全保障を分析するにあたっては、本論文は、とりわけ人間の安全保障に影響をあたえる「集合行動」の側面の重要性に着目すべきであると論じる。その関連で、人間の安全保障が恒常的に脅かされる状態として、ホッブズのいう「自然状態」を再検討することの理論的有用性が言及される。人間の安全保障を確保する手段として、本論文は、脅威の原因に影響を与える手段と、脅威の結果に影響を与える手段の二つを区別している。どのような脅威にいかなる手段を組み合わせて対応するかは、脅威の性格や発生のメカニズムに即して適切に行われなければならない。最後に本論文は、誰が誰の人間の安全保障を確保するかに関する主体の問題を論ずる。基本的には責任ある主権国家が決定的な役割を果たすとの認識を示しつつも、本論文は、地球的規模でかつ相互関連性の高い人間の安全保障への脅威の性格からして、さまざまな関係主体––国家、国際組織、企業、市民社会組織、学術機関など––の協力が不可欠であることを主張する。

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