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国際開発学会・人間の安全保障学会2024共催大会にてJICA緒方研究所研究員らが各種発表を実施(その1:人間の安全保障)

2024.12.04

2024年11月9~10日に、国際開発学会・人間の安全保障学会2024共催大会が法政大学市ヶ谷キャンパスとJICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)で開催されました。世界が不安定化する中、誰一人取り残さず、一人一人の尊厳を守る社会はどのように実現できるのか、そのために国際協力はどのような役割を果たし得るかをテーマに掲げ、さまざまな議論が行われました。

冒頭の「不確実な時代の国際協力と人間の安全保障」と題したプレナリーセッションでは、田中明彦JICA理事長がワーキングペーパーNo.91「Toward a Theory of Human Security 」を紹介しつつ、物理システム、生命システム、社会システムの相互関係について触れた上で、脅威の発生を包括的・学際的なシステム分析により捉える人間の安全保障研究の必要性について講演しました。

また、JICA緒方研究所の研究員らは、人間の安全保障に関連したラウンドテーブルを開催しました。各内容は以下の通りです。

【移住の自発性と強制性を超えて:Aspiration-Capability理論を人間の安全保障レンズで捉えなおす】

齋藤聖子 主任研究員、武藤亜子 専任研究員、折田朋美 主席研究員、立教大学の石黒格教授、東京大学の村本由紀子教授は、従来の労働移住理論に新たな視座を提示しました。具体的には、人間の安全保障の観点から、アジアにおける労働移住の特異性を示しました。

従来の研究では、労働移住は個人の高いAspirationとCapabilityに基づく「能動的移住」として理解されてきました。しかし研究プロジェクト「海外労働希望者の国際移動経路と経路選択メカニズムに関する研究 」では、アジアの文脈において、この「能動性」がコミュニティーとの関係性の中で形成される点に着目し、欧州型の個人主導による意思決定モデルとは異なる「潜在的強制性」の存在の可能性をインドネシアのフィールド調査を示しながら理論的に提示しました。この知見は、移住者が直面する構造的脆弱性を新たに可視化し、開発協力における「保護」と「エンパワメント」の最適なバランスの再考を促しています。フロアディスカッションでは、この理論的再整理の実践的応用可能性が議論され、「アジア型労働移住モデル」の構築による開発協力の実務への貢献に期待が寄せられました。

【国家の安全保障と人間の安全保障:政治と人道、開発、平和構築の視点から】

折田 主席研究員、志賀裕朗 客員研究員(横浜国立大学教授)、武藤 専任研究員、杉谷幸太非常勤研究助手、佐藤仁 客員研究員(東京大学教授)、竹内海人 研究員は、「国家の安全保障」と「人間の安全保障」の関係に着目したラウンドテーブルを開催しました。JICA緒方研究所レポート『今日の人間の安全保障 』第2号に掲載された「ポスト・ポスト冷戦時代の人間の安全保障 」「紛争中の自然災害 」「人間の安全保障とジェンダー 」の3つの論考から、国家の安全保障が前景化する中で、人間の安全保障を実現していく上での課題について議論しました。

フロアを交えたディスカッションでは、国家の安全保障と人間の安全保障をつなぐために、その間にあるレイヤーを認識することや、政策レベルと現場レベルの緊張関係、人間の安全保障への脅威に対応するだけでなく予防的措置を講じることを主流化させる方策など、活発な意見が交わされました。また、事例研究の蓄積を踏まえ、脅威の類型化といった人間の安全保障の実践を理論化する研究の必要性が示されました。

「国家の安全保障」と「人間の安全保障」の関係に着目したラウンドテーブル

「国家の安全保障」と「人間の安全保障」の関係に着目したラウンドテーブル

【水資源の課題への対応ー人間の安全保障レンズから考えるマルチセクターの取り組み】

峯陽一 研究所長、今村忠嗣JICA専門家(感染症)、JICAガバナンス・平和構築部の土肥優子国際協力専門員、JICA人間開発部の野村真利香国際協力専門員、JICA企画部の服部容子課長、JICA地球環境部水資源グループの大塚高弘職員は、「人間の安全保障」と「水資源」の関係性に着目した議論を行いました。感染症、平和構築、栄養分野における人間の安全保障に対する脅威と水資源との関わりが示され、その後、複合脅威に対する開発協力アプローチについて意見が交わされました。

実務者の観点から、水分野の国際協力を人間の安全保障のレンズを通して覗くとは、「脅威の特定、保護とエンパワメントへの対応、連帯への戦略策定」を行うことと整理できるとし、ダウンサイドリスクの考慮の重要性などが議論されました。また、「水資源」の特徴的な点として、人間の安全保障の3つの価値の要素である「命、暮らし、尊厳」に関わりをもつことや、 田中明彦JICA理事長が論文 で示した物理・生命・社会システムの相互連関の中で危機を理解する上で重要な要素になり得る可能性が指摘されました。

「人間の安全保障」と「水資源」の関係性に着目した議論が行われた

「人間の安全保障」と「水資源」の関係性に着目した議論が行われた

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