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国際開発学会・人間の安全保障学会2024共催大会にてJICA緒方研究所研究員らが各種発表を実施(その2:開発協力にかかる発表など)

2024.12.06

2024年11月9~10日に、国際開発学会・人間の安全保障学会2024共催大会が法政大学市ヶ谷キャンパスとJICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)で開催されました。世界が不安定化する中、誰一人取り残さず、一人一人の尊厳を守る社会はどのように実現できるか、そのために国際協力はどのような役割を果たし得るかをテーマに掲げ、さまざまな議論が行われました。

JICA緒方研究所の研究員らによる発表内容は以下の通りです。

【発表】Making Japan’s Business Africa’s Business: Assessing the Impacts of Japan’s African Business Education (ABE) Initiative for Youth Scholarship Program

貝塚ジェームズ 研究員は、ABEイニシアティブ(アフリカの若者のための産業人材育成イニシアティブ) と呼ばれるJICA留学生事業にかかる研究に関し、現在実施中の調査の暫定結果について発表を行いました。

ABEイニシアティブの全修了生を対象とした調査を通じ、修了生が同留学生事業を非常に肯定的に評価していることに加え、留学生間のネットワーク構築、日本のビジネス文化やソフトパワーの促進において成果をあげていることが明らかとなりました。他方で、相手国において、もともと日本に関心のある人々以外の層に向けた同留学生事業についての積極的な広報は必ずしも十分と言えない点などの課題も示されました。こうした課題はありながらも、全般的にABEイニシアティブは所期の目的を達成しているとの報告が行われました。

発表を行う貝塚ジェームズ研究員(左)とパネルチェアを務めた峯陽一研究所長(右)

発表を行う貝塚ジェームズ研究員(左)とパネルチェアを務めた峯陽一研究所長(右)

【発表】大学教員の留学を通じて形成される国際学術協力関係の国際的な頭脳循環のメカニズムに関する実証研究ー日本とインドネシアを事例としてー

上智大学の梅宮直樹教授と萱島信子 シニア・リサーチ・アドバイザーは、 JICA緒方研究所の研究プロジェクト「途上国における海外留学のインパクトに関する実証研究 」のフォローアップ研究について報告しました。

本研究では、インドネシアの教員を留学生として大学院に受け入れた経験を持つ本邦大学教員14人に対して実施したインタビュー調査のデータを分析しています。インドネシアの教員の本邦大学への留学を起点とした国際的な学術協力促進のメカニズムが存在すること、促進要因として、本邦大学の置かれた状況、研究や日本人学生の教育効果の観点からのモチベーション、外部資金・プロジェクトの存在などがあり、また、留学で醸成された信頼関係を核とした人的ネットワークが重要な役割を果たしていることが明らかになったと説明しました。コメンテーターや参加者からは、自然発生する学術協力の制度化、理系・文系の違いなどについて言及・質問があり、活発な議論が行われました。

発表を行う萱島信子シニア・リサーチ・アドバイザー

発表を行う萱島信子シニア・リサーチ・アドバイザー

【ブックトーク】Impacts of Study Abroad on Higher Education Development―Examining the Experiences of Faculty at Leading Universities in Southeast Asia

萱島信子シニア・リサーチ・アドバイザーとシュプリンガーネイチャーの河上自由乃氏は、2024年8月に同社から出版した書籍『Impacts of Study Abroad on Higher Education Development 』を紹介しました。東南アジアにおけるトップ大学の教員の留学経験の現状や、留学経験がその後の教員の活動(教育・研究・社会貢献・大学運営)に及ぼしたインパクトなどの書籍の一部を紹介するとともに、編集・出版過程での経験も共有しました。参加者からは、大学教員を対象とした研究枠組みについての質問とともに、オープンアクセス出版についての質問も寄せられ、参加者の関心の高さがうかがわれました。

【発表】Developing the Analytical Framework of the External Validity of Evidence: Case Studies of Interventions for Educational Development

丸山隆央 主任研究員は、セッション「Evaluating the Effectiveness of Interventions: Practices and Outcomes from Rural Development to Educational Support」において、教育開発分野の事例をもとにしながら、エビデンスの外的妥当性を考察するための枠組み・手順について論じました。国際開発分野においてインパクト評価をもとにしたエビデンスは2000年代以降急増しましたが、その政策立案・実践における活用は引き続き課題となっています。インパクト評価における調査対象の地域を越えて、評価結果が適用できるかという点は、エビデンスの外的妥当性と呼ばれ、政策立案者や実務者がエビデンスを活用していく上での課題となっています。丸山主任研究員は、政策立案者・実務者による活用を念頭に、4つのシンプルなステップからなる、エビデンスの外的妥当性の分析枠組みを提示し、参加者と議論を行いました。

【発表】Are African Youth Vulnerable, Risk and/or Potential for Peace and Development? -Interdisciplinary approach to capture their triunity-

今井夏子 リサーチ・オフィサーは、アフリカの若者の脆弱性、危険性、可能性をめぐる先行研究のナラティブ・レビューを行い、その成果を報告しました。アフリカの若者はこれまで、「人口ボーナスの主体」「構造的不平等の被害者」「社会の不安定要素」など、肯定的にも否定的にも捉えられてきました。開発アジェンダとして大きな可能性を有しているにも関わらず、若者を取り巻く環境や社会に及ぼす影響の理論的また学術的な議論は、これまで十分に主流化されてきたとは言えません。本研究では、これまでに構築されてきた理論や政策を、若者の「ラベリング」と「ブランディング」の観点から考察し、さらに、若者の暴力化とその予防に働きかける要素を、「押し込み・引き寄せ・引金・鉤」要因の枠組みとして整理しました。今井リサーチ・オフィサーと参加者らは、「ラベリング」と「ブランディング」の中間に位置付けられる介入や、暴力が若者をエンパワーするパラドックスの克服について議論しました。

【発表】Human Security in the Digital Age

リセット・ロビレス 客員研究員は、パネルセッション「Human Security in the Digital Age」に参加し、論文「人間の安全保障の研究と実践におけるエンパワメントの手段としてのPhotovoiceの活用」から、メトロマニラを利用する女性通勤者の日常的な移動を調査したサブ研究の事例を紹介しました。本研究ではPhotovoiceを主要な調査手段として活用しており、発表ではPhotovoiceの有効性や、人間の安全保障アプローチをどのように実践するか、また、人間の安全保障を研究テーマや研究プロセスの中で重要な基本要素として適応する重要性を強調しました。また、Photovoiceが人々の不安を理解し、必要な保護とエンパワメントを特定するための人間中心のアプローチを促進する方法として示され、参加者からも実証的な人間の安全保障研究へのPhotovoiceの活用についての関心の高さがうかがわれました。

【ポスターセッション】国際労働移動における国連機関の役割についての比較研究―国際労働機関(ILO)と国際移住機関(IOM)の場合

李千晶職員は、ポスターセッションにおいて、国際労働移動に関わる2つの国連機関である国際労働機関(International Labour Organization: ILO)と国際移住機関(International Organization for Migration: IOM)の公式文書の各5本を、人間の安全保障のフレームを適用して分析した結果を発表し、約15人の研究者・実務家からの質問に答えました。本研究は「海外労働希望者の国際移動経路と経路選択メカニズムに関する研究 」への貢献を目的としています。

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