No.160 Determinants of Firms’ Capital Structure Decisions in Highly Dollarized Economies: Evidence from Cambodia

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本稿では、カンボジアという極度にドル化した経済での企業の資本構成の決定要因を実証的に分析した。具体的には、先進国企業の資本構成の決定要因としてよく使われるトレードオフ理論、エージェンシーコスト理論、ペッキングオーダー理論といった標準的な理論でカンボジア企業の資本構成の説明ができるかどうかの実証分析とともに、ドル化経済特有の通貨ミスマッチリスクの影響が見られるかどうかの実証分析を行った。実証分析では、カンボジア中央銀行(National Bank of Cambodia)とJICA研究所が共同研究として2014年に調査した856社の企業のデータのうちの負債を所有している企業223社を対象に実証分析を行った。特に、実証分析では銀行負債比率を被説明変数とした上で、開発途上国でしばしば問題となる外部負債へのアクセスの制約によるセレクションバイアスに対応するため、サンプルセレクションモデルを用いた推定を行った。

サーベイの結果を見ると、カンボジア企業の主要な借入先は商業銀行であり、かつ商業銀行からの借入はすべてがUSドルとなっていることから、カンボジア企業の資金調達はUSドルによる借入に限定されていることが明らかになった。さらに回帰分析の結果、資本構成の決定に関して、固定資産比率が高くなるほど銀行負債比率が高くなること、また、事業リスクに対する保険を所有している場合、銀行負債比率が高くなることが示された。そして、自国通貨建ての借入が利用できないほど金融取引が高度にドル化した経済に特有の要因として、通貨ミスマッチリスクが銀行負債の総資産比率に影響を与えているという結果も見られた。特に、収益率が高い企業ほど、収入のうちの外貨比率の上昇に対し銀行負債比率を低くする傾向が有意にみられた。これは、内部資金が潤沢な企業ほど通貨ミスマッチリスクに敏感に反応し通貨ミスマッチリスクを抑える行動をとっていること示唆する結果といえる。

これらの実証結果から、ほかの開発途上国で見られるようにカンボジアの企業の資金調達では担保となりうる資産があるかどうか、また、倒産リスクの程度が重要な要因であることが考えられる。そして、カンボジアのような金融取引が高度にドル化した経済では自国通貨建ての借入が利用できないため、自国通貨建ての収入を持つ企業の為替リスクのヘッジ手段が限定的になっていることが企業の資金調達において制約として働いていることが考えられる。そのため、例えば自国通貨建てのローン市場の拡充といった自国通貨の促進政策はカンボジア企業の資金調達におけるリスクを緩和し、企業の資金調達の促進につながることが期待できるだろう。

キーワード: カンボジア、ドル化、資本構成、サンプルセレクションモデル

著者
奥田 英信 相場 大樹
発行年月
2018年1月
関連地域
  • #アジア
開発課題
  • #経済政策
研究領域
経済成長と貧困削減
研究プロジェクト