JICA緒方研究所

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ワーキングペーパー

No.167 Stagnation of Integration in Aid Administration in South Africa —Choices Between Norms, Interests and Power Balance—

本ワーキングペーパーは、南アフリカの援助行政の統合が、どのように、なぜ実現していないのかを分析する。

援助決定要因を分析した先行研究は当初、援助受入国の開発ニーズよりも援助供与国の利益に焦点を当てていた。近年、こうした分析はアイデンティティ・規範といった非物質的要素の役割を重視する理解が主流を占めるようになっている。つまり、援助関連のステークホルダーが特定アイデンティティ・規範を一度内面化すれば、それらアイデンティティ・規範が援助戦略や政策のあり方を決定するようになると考えるのである。しかし、本ペーパーは、選好される物質的利益もアイデンティティ・規範もともに重要であり、それらの内容・強度は援助供与国によっても、同一援助供与国内であったとしても時期によっても異なることを論じる。従って、本ペーパーでは、援助行政の統合において、ステークホルダーが選好する利益・規範双方の役割に焦点を当てることにする。

南アフリカは、卓越した新興援助供与国であるだけでなく、地域的に見てもアフリカ大陸で唯一の主要ドナーであるし、グローバルな視点で見ても影響力あるBRICSの一角を占めている。近年、南アフリカは前大統領、与党、国際関係・協力省が「アフリカン・アイデンティティ」を強調し、同時に、分権的であった同国の援助行政を集権化・統合する試みを重ねてきた。その結果、集権化された援助調整メカニズムとして、南アフリカ開発パートナーシップ庁(SADPA:South African Development Partnership Agency)の設立が準備されてきた。しかし、大統領の交替、現職大統領の汚職疑惑とリーダーシップの後退、野党による批判、景気後退と緊縮財政、南部アフリカ地域統合における経済利益の重要性、メディア・納税者の無関心により、SADPA設置のプロセスは大幅な後れを取っている。他のアフリカ諸国との連帯を重視するアフリカン・アイデンティティに対する国内のステークホルダーの受け止め方も様々であり、政治経済状況によって大きく変動するものとなっている。少なくとも現段階では、アフリカン・アイデンティティよりも、援助供与国南アフリカの国益についての主張がなされることが多くなっている。従って、ステークホルダーのパワーバランスは、南アフリカの国益を重視するアクターに優位となっており、援助行政の統合が停滞する原因となっているのである。

本ペーパーは、援助行政の統合は、高度に政治的なプロセスによって行われるのであり、DAC提言が想定するような非政治的で技術的なプロセスのものではないことを示唆する。


キーワード:南アフリカ、援助行政、規範、アイデンティティ、パワー・バランス

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