JICA緒方研究所

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No.182 Second-chance Education in Post-conflict Timor-Leste:Youth and Adult Learners’ Motives, Experiences and Circumstances

東ティモールは、紛争を経て2002年に独立したアジアで最も新しい国家である。長期にわたる暴力と貧困により、人口の5分の1(約20万人)が基礎教育を受けていないとされる。この状況下で、東ティモール政府は2010年に公教育同等プログラム(EP: Equivalency Program、以下EP)を開始した。EPは、教育が断絶された若者や成人を対象にした、初中等教育同等の基礎教育カリキュラムを短期間で学べる速習型教育プログラムである。

本論文は、東ティモールで教育機会を再び得た(セカンド・チャンス教育)若者や成人の学習動機、および学びの機会を再獲得するまでの経験やその社会環境を明らかにするものである。研究では、紛争体験を経た若者や成人にとっての「学び」の意味を、彼ら自身による人生の語り(ライフストーリー)の中で理解することとした。EP受講者に対するライフストーリー・インタビュー(無作為抽出、N=18)を主要な調査方法とし、フォーカスグループ・インタビュー(2回)および質問票調査(N=214)を補完的に用いた。

データ分析によれば、EP受講者の多くがセカンド・チャンス教育の機会を希求し、その理由は、主に知ることへの欲求や自尊心の向上といった学びの内的動機に基づくことが分かった。彼らのライフストーリーの語りからは、紛争下における通学路の危険性やゲリラ活動への参加、社会の混乱やそれに起因すると思われる貧困のために教育を断念せざるを得なかった苦難、学齢を過ぎて自身が教育を受けていない「失われた世代」となることへの絶望感が明らかになった。セカンド・チャンス教育によって、彼らは学びによる内的満足感や自己決定権・行為主体(エージェンシー)感の向上による自己肯定感を得る機会を獲得していた。また、彼らの学びへの欲求は、国家の独立による「新しい社会の到来」という紛争後の高揚感によって更に強まっていた。

本研究は、学びが生産性の向上という人的資本の形成のみならず、内的満足感や自己肯定・効力・決定権といった人間の尊厳に関わる便益をもたらすことを示している。人間の基本ニーズの充足や権利の実現を困難にしていた紛争が終わり、復興期の高揚感や将来への期待感が続いている現在の東ティモールは、普遍的教育を達成し人間の尊厳を実現する契機にあると言える。

キーワード:セカンド・チャンス教育、東ティモール、ライフストーリー・インタビュー、若者

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