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インタビュー【JICA-RIフォーカス 第11号】 峯 陽一客員研究員に聞く

2011.01.14

紛争予防の観点から開発のあり方を検——JICA研究所 峯 陽一 客員研究員にインタビュー

Yoichi Mine Visiting Fellow at JICA-RI

現在、アフリカ10カ国を対象に進められている「アフリカにおける暴力的紛争の予防」研究プロジェクトについて、代表を務める峯 陽一 客員研究員(同志社大学大学院教授)に、研究の意義や目的、これまで実施した現地調査の成果などについて話を聞きました。

研究プロジェクトの概要

研究の背景や意義についてお聞かせください

東西冷戦が終結し、世界に平和の配当が進むものと期待されていた90年代、アフリカ諸国をはじめ、さまざまな国や地域で暴力的な紛争が勃発し、大量の難民・避難民が発生しました。紛争はそれまでの開発効果を一瞬で減退させるばかりか、新たな貧困を生み出します。現在アフリカでは、まだ一部の国や地域で激しい紛争が残っているものの、全体的には安定しています。しかし、このまま平和が定着するかといえば、残念ながら心もとないのが現状です。

「アフリカの暴力的紛争を繰り返してはいけない」

こうした国際社会の決意の下、2007年11月にロンドン近郊にあるウィルトン・パーク会議場で、各国の研究者やドナー、国際機関、アフリカ諸国の政府関係者ら約70人が参加し、「アフリカにおける紛争予防と開発協力」について議論する国際会合が開かれました。この会合は、JICAと国連開発計画(UNDP)が共同で開催したものです。

このウィルトン・パーク会合では、ルワンダやブルンジ、シエラレオネなどを事例に、紛争を引き起こす構造的な要因について議論を深め、関係者間で紛争予防に開発援助が果たし得る役割は大きいという認識が共有されたことは、とても大きな成果でした。ただ一方で、紛争予防に対し有効な開発援助の方策といった点では、十分な回答が得られたわけではありません。そこで本研究プロジェクトでは、こうしたウィルトン・パーク会合での成果と問題意識を引き継ぎ、アフリカで暴力的紛争が発生する要因を「構造」と「政治プロセス」からとらえ、社会の安定・不安定につながるメカニズムを解明していこうと考えています。

本研究の中では、構造的な紛争要因を見ていく際には、英国オックスフォード大学の「不平等・人間の安全保障・エスニシティ研究センター(CRISE)」が提唱する所得や資産、経済機会、教育、保健衛生など、社会経済に関する水平的不平等に着目しています。また、政治的プロセスを見ていく際には、その国の政治制度や隣国・地域で発生した紛争の影響などに注目し、事例の分析を進めています。

アフリカの国々は、マルチエスニック(多民族)社会なのですが、問題なのは民族間の関係が必ずしも対等ではないことです。植民地時代に優遇され、政権の中枢にいる民族もいれば、逆にマージナライズされ、社会経済が発展しても恩恵を十分に受けられない民族もいます。紛争の背景には、こうした民族間の水平的不平等に対する意識があることが多いのです。また、こうした不平等感を背景に、紛争に至る引き金と成り得るのが政治制度の選択です。この場合、紛争終結とともに分権的な制度デザイン(権力分散型)を選択した国と、集権的な制度デザイン(権力集中型)を選択した国とに分かれるのですが、それぞれの政治制度が民族的な意識に適合し、紛争を上手に押さえ込んでいる国もあれば、民族的な対立を助長している国もあります。こうした制度デザインとガバナンスや貧困削減のパフォーマンスに相関関係があることも、私たちの研究で分かってきています。

こうした構造的要因と政治プロセス、そして人々の不平等感の相互作用が社会の安定・不安定にどのようなメカニズムで作用しているかを見ていくことは、今後アフリカにおける平和構築や紛争予防に向けた開発援助の方策を検討していく上で、非常に有意義な示唆が得られると考えています。

研究の対象国・方法は?

今回の研究対象国となっているのは10カ国です。この10カ国の政治システムを権力分散型と権力集中型に分類し、政情が安定している国と安定していない国の比較を試みています。具体的には、ブルンジとルワンダ、ウガンダとタンザニア、コートジボアールとガーナ、ジンバブエと南アフリカの4つの組み合わせで比較し、これに加えケニアとナイジェリアについては、単独で事例の分析を進めています。

また、各エスニックグループの不平等感といった意識については、直接現地に入って住民から話を聞く必要があることから、すでにガーナ、ジンバブエ、南アフリカ、ナイジェリアの4カ国で意識調査を実施しています。今後は、ウガンダ、タンザニア、ケニアでも同じように調査を行い、最終的には計7カ国で数千人規模のサンプルを収集し、分析していくことになっています。

これまでの成果と今後の計画

現地調査で見えてきたことは?

各国で実施した意識調査では、エスニックグループごとに「あなたはどのグループが嫌いか」「自分の娘と○○○族との結婚を許すか」というように、かなり切り込んだ質問も交え、社会的な不平等感や政治・民主主義に対する意識について、本音の部分を探りました。

ただし、すべての国で調査できるわけではありません。例えば1994年にツチ族とフツ族の間で大規模な虐殺が発生したルワンダでは、そうした話題自体がタブー視されている状況があります。一方、80年代に虐殺が起き、今でも政治経済的な混乱が続くジンバブエの人々は、私自身が調査をモニタリングしていて分かったのですが、本音の部分で何でも話してくれます。国やエスニックグループにより、性格が大きく違うのです。

また、これまでの現地調査で得られたデータを観察してみると、物質的に明らかに貧しい人たちが他のグループに対して敵愾心を抱いているかというと、必ずしもそうではないようです。場合によっては相対的に豊かな人たちの方が、敵愾心が強い場合もあります。詳細はデータの解析結果を待たなければなりませんが、さまざまな要因が複合的に作用し、不平等という意識が構成されていることが分かってきました。こうした複雑な意識を定量的に解析し、定性的なケーススタディーと結びつけて教訓を引き出していくところに、この調査の面白さがあります。

すでに意識調査を行った4カ国については、現在データ解析を進めているところですが、残りの対象国についても意識調査を実施し、本年度中にはすべての国のデータ解析結果の報告会を開催する予定になっています。そして来年度にかけ、順次、国ごとにワーキングペーパーをまとめ、最終的には研究成果全体を英文書籍として出版していきたいと考えています。

JICA事業との連携やフィードバックについては?

本研究プロジェクトでは、研究のフレームを作っていくところから、JICA関係者はもちろん、ウィルトン・パーク会合に出席した各国の援助関係者らからコメントを聴取するなど、積極的に連携を図ってきました。これは、この研究プロジェクトの成果に政策的なインプリケーションを持たせる上では、とても重要なことだと考えています。研究のための研究ではなく、あくまで実務や政策にどうフィードバックしていくかという観点から研究を組み立てていくことが、JICA研究所の強みであり、また使命でもあるのです。

現地調査を実施する際には、各国にあるJICAの現地事務所のサポートを受けています。研究者や研究機関のみでは、これほど効果的・効率的に大規模な調査を実施することはできなかったでしょう。こうして得られた意識調査のデータは、他の研究機関にはない貴重な一次資料です。

ウィルトン・パーク会合もそうですが、アフリカで暴力的紛争が発生するメカニズムを理解し、それを予防する開発援助の方策を検討していくという試みは、日本が積極的にかかわってきた研究課題です。「どのような支援をすれば、マルチエスニック社会のアフリカで、国が平和的にまとまるのか」。本研究は、日本が率先してこうした問いに対する一つの回答を導き出そうという試みです。ミレニアム開発目標(MDGs)の達成など多くの開発課題を抱えるアフリカに対し、インフラ整備や貧困削減、保健医療、教育など、さまざまなプロジェクトを形成する際に、民族構成や社会的背景への配慮など、研究で得られた教訓を盛り込んでいくことで、より一層、効果的な支援が展開できる可能性があるのです。

今後、本研究プロジェクトの成果がJICA事業のみならず、広くアフリカの開発課題に取り組む各国ドナーや国際機関でも有効に活用されるよう、積極的に国際社会に向け発信していきたいと考えています。

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