インタビュー【JICA-RIフォーカス 第19号】 本田俊一郎リサーチ・アソシエイトに聞く

2012.02.02

第4回援助効果ハイレベルフォーラム(釜山HLF4)——本田俊一郎リサーチ・アソシエイトがふり返る会合の特徴と論点

2011年11月29日から3日間にわたり、韓国・釜山で「第4回援助効果ハイレベルフォーラム(釜山HLF4)」が開催され、156カ国・地域の政府、国際機関、市民社会組織、民間セクターの代表ら約3,500人が参加しました。フォーラムの準備段階から関わったJICA研究所の本田俊一郎リサーチ・アソシエイトに、今次会合の全体的な印象と特徴、注目された議論などを聞きました。

幅広いパートナーシップの形成

今回のハイレベルフォーラムは、2008年に開催されたアクラ(ガーナ)に続く第4回目の会合となりました。メンバー構成も含め、今回の特徴、あるいは変化についてどう感じられましたか。

これまでの先進ドナー中心の議論から、より多くのプレイヤーを巻き込んだ“インクルーシブ”な会合になったことが今回の大きな特徴だったと思います。「援助効果ハイレベルフォーラム」は、03年のローマ、05年のパリ、08年のアクラ、そして今回の釜山と続いているわけですが、過去3回のフォーラムはDAC(OECD開発援助委員会)の主要メンバーである先進ドナー諸国、世界銀行など国際開発金融機関、その他国連機関が中心となり、援助国側が途上国の能力を向上させていくためにどう工夫していくか、といった点が議論の中心テーマになっていました。途上国側をもっと巻き込んでいくことが重要ではないかという議論が強まったのは前回、アクラ会合の時です。そうした議論の高まりを受け、今回は準備段階から途上国政府、中国やインド、ブラジルなどの新興ドナー、さらには国際NGO/NPOも交えた幅広いコンサルテーションを行い、最終的には156カ国・地域の政府、国際機関、民間セクター、市民社会組織の代表ら約3,500人が参加しました。

今後も幅広いプレイヤーを出来るだけ巻き込んで、開発、あるいは援助を推進していこうという新しい枠組みが形成されたと捉えています。

幅広いパートナーシップの形成は、当然、ハイレベルフォーラムの議論、テーマなどにも影響を及ぼしてくると思います。

これまでのフォーラムでは「援助の効果」というものが大きなテーマになっていましたが、中国やインドのような新興ドナー、さらに企業の直接投資などの効果を視野に入れていく必要があり、狭義の「援助」、あるいは「援助効果の改善」という言葉だけでは表現しきれなくなっています。今後の継続的な流れとしては「援助効果」から「開発効果」という言葉に置き換えないと、多様なアクター、プレイヤーが関わっているプロセスを的確に表現できなくなってくると思います。実際、「エイド(援助)」という言葉は使わず、「デベロップメント・コーポレーション(開発協力)」という呼称に統一していこうとしています。釜山で広がったパートナーシップの枠組みをしっかりと定着させ、具体的に機能させていくことがこれからのテーマになっていくと思います。

DAC加盟国による伝統的なODA援助の部分だけを見ていても、開発全体の動きはつかめなくなっている。その問題意識がフォーラムのあり方を変えたと捉えることも出来ますね。

全体的な開発資金のポーションを見てみても、DAC加盟国の伝統的な先進ドナーのパーセンテージはものすごく下がってきている。一方、中国やインド、ブラジルなどの新興ドナーや民間資金の流れは一段と拡大しており、確かに伝統的な援助の部分だけをフォーカスしても全体の姿は見えなくなっている。別の視点から言うと、DAC加盟国、あるいは世銀といった“伝統的”な援助機関が展開する事業の内容を改善したとしても、それはあくまでも全体のほんの一部に過ぎず、開発の大きな成果にはつながらないということを意味しています。ならば、民間資金を含め、全体をカバーしなければならないという問題意識は前回のアクラ会合あたりから深まっていったと思います。

開発課題についても従来から想定されていた「貧困削減」に加え、気候変動対策、脆弱国対策、ガバナンスなど新しいイシューがどんどん浮上してきており、より多様な能力を持ったアクターの参画が欠かせなくなっている。釜山会合の大きな成果は、激変する世界情勢に対応しうる、奥行きと広がりのある枠組みが形成されたことで、これをどううまく機能させていくかが“ポスト釜山”のテーマであると考えています。

南南協力や三角協力に関心高まる

三角協力や南南協力など日本からの発信にも注目が集まったようですが…。

日本代表団の団長を務めた中野譲外務政務官は、国難とも言える東日本大震災が発生したものの、日本が決して内向きにならず引き続き開かれた復興に努め、援助のコミットメントを守っていくことを力強く表明するとともに、アジアの発展に貢献した日本のODAの触媒的役割や三角協力の効果を紹介、開発協力における日本の取り組みとその成果を強くアピールされました。一方、JICAは「南南協力」や「三角協力」の一層の拡充を目指したサイドイベントを開催し、多くの参加者の関心を集めました。また、会合のテーマ別セッションでは細野昭雄JICA研究所長がブラジルやケニアとJICAが実施している三角協力の概要を紹介し、実践レベルで経験を共有しあうことの重要性を強調されました。前回のアクラ会合では南南協力の重要性が認識されたわけですが、今回の会合を通し南南協力、三角協力などに対する途上国リーダーの認識を、さらに深めることが出来たのではないか、と思っています。

JICA研究所の貢献としては、韓国の外交通商部及びKOICA(韓国国際協力団)、米国のブルッキングス研究所との共同研究成果として取りまとめられた共著「Catalyzing Development」の内容をアジェンダ作成のプロセスにインプットするとともに、会合の準備段階からアドバイス活動を展開することができました。

今回の釜山ハイレベルフォーラムから、JICA研究所の今後の活動にフィードバックできることはどんなことでしょうか。

一つは、新興ドナーを含む新しい開発アクターの研究の充実が必要になると思っています。中国やインド、あるいは財団、国際NGOなどの援助体制・手法、また何を目的に援助を行っていくのかなどの調査、研究を深めていくとともに、途上国側はそれら新興開発アクターをどう捉え、どう連携していこうとしているのか、を逆に探っていくことも“包括的なパートナーシップ”のあり方を展望していく上で大切になってくると思います。このテーマについてはこれまでも研究が進められていますが、さらに深化させていく必要があると考えます。

また、今回の会合でも重要性が指摘されたCD(キャパシティー・デベロップメント)につても、これまでの取り組みがどう効果を上げているのか、逆に効果が上がっていないとしたら何が原因なのかを具体的な事例研究を通して分析、発信していくべきでしょう。せっかく援助をインプットしているのに成果が上がらないとすると、CDが強まる方向で限られたODAを集中投資しなければならない。したがって、この分野についても途上国の何のキャパシティーをどう高めていくかという視点に立ち、研究活動をさらに深化させていく必要があると思います。

研究活動と援助現場の連携のあり方については、どう考えられていますか。

研究と援助実践の一層のリンケージ強化へ向けては、個別の研究を着実に遂行し公表していくことはもちろんのこと、研究成果が日々多忙な援助実務者を通じ適切に援助実践へ反映されていくよう、実務者・研究者間のより密接な情報共有と協働作業の推進、さらには研究成果の発信における工夫が鍵となると考えます。そのような研究と実践のつなぎ役、さらには研究成果の“トランスレーション役”、も当研究所に求められているもう一つの大きな役割ではないでしょうか。

私は実務者の立場から研究活動に携わっていますが、JICA職員が人事ローテーションの一環として研究所に配属されるのは、非常に効果的なのではないかと思います。実践から得られた問題意識、あるいは経験や知識などを研究活動に反映していくことは、研究成果の現場実践へのトランスレーションをよりスムースにし得るからです。

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