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【原田徹也主席研究員/芦田華リサーチ・オフィサーコラム】産業構造の転換を呼び起こす回廊整備と物流円滑化~タンザニアの現地調査から見えてきたもの~

2025.05.29

JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)には多様なバックグラウンドを持った研究員や職員が所属し、さまざまなステークホルダーやパートナーと連携して研究を進めています。そこで得られた新たな視点や見解を、コラムシリーズとして随時発信していきます。今回は、インフラ整備によるインパクト評価に関する研究を行う原田徹也主席研究員と芦田華リサーチ・オフィサーが以下のコラムを執筆しました。

著者:原田徹也主席研究員 JICA緒方研究所
芦田華リサーチ・オフィサー  JICA緒方研究所

JICA緒方貞子平和開発研究所で力を入れている研究の一つに、インフラ整備によるインパクトの厳密な評価があります。研究プロジェクト「サブサハラ・アフリカの産業構造転換とインフラ投資・産業政策 」では、主にタンザニアをフィールドに、国際回廊整備をはじめとする過去の道路投資や関連する貿易円滑化政策が、各地域の産業・雇用構造への変化、企業集積、土地利用などにどのような影響を与えたのかを、厳密に評価しようとしています。

本コラムでは、タンザニアの道路整備と産業発展のダイナミクスについて、これまでの現地視察を通じて確認されたことなどを紹介し、本研究の意義について説明したいと思います。

隣国との域内貿易における道路網の役割

タンザニアはアフリカ大陸の東岸の中ほどにあり、インド洋に面しています。国土は日本の約2.5倍、人口は日本の二分の一ほどです。主要な幹線道路網として、ダルエスサラーム港などの主要港からタンザニアを横に横断し、近隣の内陸国のブルンジ、ルワンダ方向に抜けるものと、タンザニアの北のケニアと連結し、タンザニアを南北に縦断して南方のザンビア等に抜ける道路があります。これらの主要幹線道路はタンザニア政府のみならず、国際機関や日本を始めとした二国間ドナーも段階的に支援を行ってきました。

これらの道路は国際回廊としても重要な役割を担っています。具体的には、ブルンジ、ルワンダなどは内陸国であるため、海路による物資の輸出入は、タンザニアの港で行い、トラックなどを用いてタンザニアの道路を経由して行う必要があります。タンザニアは自分の資金で港や道路を整備する必要がありますが、これら内陸国から港・道路の利用料の支払いを受けています。なお、これら内陸国にはタンザニアの代わりにケニアの道路と港を使う選択肢もありますので、タンザニアとケニアの港は競合関係にもあります。

また、タンザニアとケニアの間でも国境を通る道路を通じて貿易が行われており、ケニアからは主に軽工業製品がタンザニアに輸出され、タンザニア側からは木材や穀物などの農林産品がケニアに輸出されています。私たち研究チームは、ケニアの首都ナイロビと、タンザニアの主要都市アルーシャの間の国境にあるNamangaという町のOne Stop Border Post(OSBP)について視察しました。OSBPとは日本も重点的に支援を行ってきた 国境貿易の手続きを簡素化する施設です。例えばタンザニアからケニアに輸出物資を運ぶトラックは、従来は別々の建物で、まずはタンザニアからの出国手続きを済ませ、次にケニアの建物で入国手続きを行うのに加え、荷物の通関手続きについても別の窓口を訪れる必要があり、その結果、多くのトラックが手続きのために長時間国境に留まらないといけないことがありました。OSBPはこれらを同じ建物内でスムーズなフローで行うことができるようにしたものです。さらに近年では、小規模な貿易業者に対する手続きの簡素化も進め、域内貿易の門戸がさらに大きく開かれてきています。

研究チームはまたAUDA-NEPAD (アフリカ連合開発庁-アフリカ開発のための新パートナーシップ)やEAC(東アフリカ共同体)の専門家とも意見交換を行いました。これら組織は、国際回廊の整備に加え、域内各国の貿易に関するルールの標準化等にも尽力しています。ヒアリングでは、国境での物資滞留時間を測るだけではなく、港での手続き、道路輸送、国境を経て最終目的地まで物資が運ばれる時間を総合的に評価すべきという問題意識、また、片荷問題と呼ばれる、港から内陸国向けのトラックには輸入品が沢山積まれているが、内陸国から輸出できるものが少なく、港へ戻るトラックに輸出貨物が少ないといった問題も聞かれました。道路整備が産業開発に与えた実際のインパクトについては、私たちの研究成果から何か示唆が得られればと考えています。

国内産業の発展と道路網

タンザニア国内の発展の観点からも、道路開発は重要です。タンザニア最大の都市、ダルエスサラームは年間7%と、サブサハラ・アフリカの中でも高い都市人口成長率を記録しており、BRT(Bus Rapid Transit)など都市交通の拡充が急ピッチで進められています。また、ダルエスサラームから首都ドドマまでの旅客・貨物鉄道が2024年7月に開通するなど、鉄道網の整備も進んでいます。しかし、タンザニア全体を見たときに、道路は引き続き主要な輸送手段です。私たちの研究では、道路投資が経済構造転換、産業集積、土地利用等に与える影響を分析するため、関連する企業や当局を訪問し、インタビューを行いました。

首都のドドマ近郊では、ブドウを加工し、ワインの原液を生産している業者を訪れました。同社は従業員規模4名程度の小規模な事業者ですが、このような企業はタンザニアの代表的な規模です。JICAが支援して実施している日本型のカイゼンの経営指導を受けたこともあります。ドドマではワイン産業が拡大しており、輸送網の確立も相まってヨーロッパへの輸出も一部行っており、タンザニアの産業としての農産加工品の将来性が感じられました。

一方、アルーシャでは、7,000人の従業員規模を誇り、日用品のプラスチック製品や縫製を行う工場を見学しました。主に国内市場向けの生産ですが、機械設備もかなり備えられて大量生産を行っています。近年のアフリカの製造業において、小規模で生産性の低い企業と、資本装備率が高く生産性が高い一部の大企業との二極分化が進んでいるという研究結果を思い起こさせる視察でした。


また、アルーシャは家具産業が多く集まっている地域としても知られています。その数社に家具産業が盛んな理由についてインタビューを行ったところ、同地域がンゴロンゴロ国立公園やキリマンジャロ山などの有名観光地の玄関口であり、ホテルなどからの家具の注文が多くなされていること、また同業他社が集まっている結果、スキルを持った労働者が複数の会社を渡り歩くということも一般的に行われており、労働者の確保が容易という話も聞かれました。これらはまさに、「集積の経済」のメリットとして従来から学術的に指摘されていることであり、理論と現実の一致を目撃した思いでした。道路インフラとの関係では、国内の道路ネットワークの改善の結果、従来よりも遠方から原材料となる木材を調達したり、製品の注文を受けたりということもあるようで、インフラと産業開発についてのつながりを確認できました。

道路網の整備は農業にとっても重要です。タンザニアではJICAによる長年の農業支援の成果 もあり、コメの生産量が増加してきており、周辺国に輸出を行うこともあります。キリマンジャロ山の南麓モシにある研修施設では、稲作技術の他地域への展開もなされています。また、メイズなど伝統的な食糧作物、コーヒーなど商品作物の生産も盛んに行われています。これらの作物の生産量や土地利用の変化と道路網整備の関係を明らかにすることも学術的に重要です。

タンザニアは過去20年間、サブサハラ・アフリカ諸国の中でも高く、安定的な成長率を遂げてきました。道路を始めとした公共投資は、建設業の発展など、経済成長を建設需要などの需要面から支えてきました。一方、道路網の整備は、今回紹介したように域内貿易や産業開発にも影響を与えています。現地出張でそれらを体感するとともに、タンザニアの道路関係機関や統計局とも連携を深め、データを入手しています。今後はこのような政府データ、及び近年その有用性から利用が増えている衛星写真データなどのGISデータも活用し、より厳密に道路整備と産業構造変換の関係について明らかにし、開発政策に役立つ示唆を取りまとめていく予定です。

※本稿は著者個人の見解を表したもので、JICA、またはJICA緒方研究所の見解を示すものではありません。

■プロフィール
原田徹也
国際協力機構(JICA)、国際協力銀行(JBIC)、海外経済協力基金(OECF)で、東南アジア、サブサハラ・アフリカのインフラ開発事業や政策支援借款、企業向け融資審査業務などに従事し、世界銀行エコノミスト、JICAインドネシア事務所、審査部などを経て現職。主な研究領域は、開発経済学、応用計量経済学、政策評価、途上国の産業構造変化、インフラ開発など。

芦田華
ペルーでの青年海外協力隊(コミュニティ開発)、総合商社を経て、2022年から現職。主な研究領域は、開発経済学、計量経済学。

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