JICA研究所が「東アジアの経済回復」でシンポジウム開催

2012.03.07

JICA研究所は2月27日、「The Second East Asian Miracle?: Political Economy of Asian Responses to the 1997/98 and 2008/09 Crises(東アジア1997年危機からの経済回復過程の政治経済学)」と題する公開シンポジウムを東京・市谷の研究所内で開催しました。大学や企業、大使館の関係者など総勢80人が参加しました。

東アジア諸国は1960年代以降、「東アジアの奇跡」と呼ばれる急速な経済成長を遂げました。その後、1997~98年のアジア通貨危機に見舞われましたが、各国経済はV字回復を遂げ、2008~09年の世界金融危機も容易に乗り越えました。この「第2の東アジアの奇跡」とも呼びうる回復のメカニズムを、政治経済学の視点から分析するというのが、JICA研究所の研究プロジェクト「東アジア1997年危機からの経済回復過程の政治経済学」の目的であり、今回のシンポジウムではその研究成果を9人の研究分担者が発表しました。

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恒川惠市シニア・リサーチ・アドバイザー

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岡部恭宜研究員

登壇したのは、JICA研究所からは恒川惠市シニア・リサーチ・アドバイザー(政策研究大学院大学教授)、岡部恭宜研究員、マスワナ ジャンクロード・ジョ・ラマナ研究員の3人です。発表タイトルはそれぞれ「日本——長期的停滞の政治経済」、「1997年危機後の金融再建とリーマン・ショックの衝撃——韓国とタイの金融システムの経路依存性」、「中国と韓国の輸出主導型成長における銀行セクターの役割についての考察」でした。

発表の中で恒川シニア・リサーチ・アドバイザーは、日本では政策の一貫性のなさが経済回復を妨げている一因と指摘。アジアの中所得国への示唆として、今後民主政治が進む中で、産業・福祉政策のぶれが経済を停滞させる可能性について懸念を示しました。

岡部研究員は、97年金融危機後の韓国とタイの金融再建とリーマン・ショックの影響を比較分析しました。韓国では政府主導で迅速に金融再建が進められましたが、対外短期債務の増大を背景に、リーマン・ショック後は再び通貨危機が発生する寸前まで行きました。対照的にタイでは金融セクターの再建は 漸進的でしたが、2008~09年の危機は回避しました。岡部研究員は両国の違いを金融システムの歴史的経路の観点から分析しました。

マスワナ研究員は、中国と韓国を比較し、銀行セクターが両国で輸出主導の経済成長に寄与してきたこと、しかし1997~98年危機の後、両国の銀行セクターの機能が、国家や外資との関係の違いを反映して異なってきていることについて述べました。

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マスワナ ジャンクロード・ジョ・ラマナ研究員

JICA研究所以外の登壇者と発表タイトルは以下の通りです。いずれも、米国やタイ、台湾、韓国といった海外の研究者です。

  • T.J.ペンペル(米国、カリフォルニア大学バークレー校)
    「グローバル金融と2つのアジア危機」
  • リチャード・ドナー(米国、エモリー大学)
    「輸出志向の東南アジアにおける経済アップグレードの政治」
  • ティティナン・ポンスティラック(タイ、チュラロンコン大学)
    「経済危機と政治危機の間——タイの競争的な自由貿易協定」
  • トーマス・ぺピンスキー(米国、コーネル大学)
    「数々の問題(しかし危機はそうじゃない)——東南アジア島嶼国における政治ビジネス関係と対外的脆弱性」
  • 朱雲漢(Chu Yun Han、台湾、中央研究院)
    「東アジアの経済的回復力の謎を解く——台湾の事例」
  • 曺和淳(Jho Whasun、韓国、延世大学)
    「民営化への道——韓国の公共セクターにおける戦略的民営化」

今回の研究発表のうち、いくつかの研究成果は3月末に、JICA研究所のワーキングペーパーとして刊行される予定です。これらは、東アジア地域における経済発展の持続性について示唆を与えると同時に、中所得国として成長を続ける同地域について援助戦略はどうあるべきかを再検討する材料としても寄与します。

開催情報

開催日時:2012年2月27日(月)
開催場所:JICA研究所

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