JICA研究所、「気候変動緩和策と国際開発」でセミナー開催

2012.02.22

kaijo.jpg

JICA研究所は2月2日、東京・市谷の研究所内で公開セミナー「気候変動緩和策と国際開発」を開催しました。このセミナーは、JICA研究所が3月に出版する、気候変動の「緩和策」(温室効果ガスそのものを削減するやり方)の国際的な取り組みとアジアの事例をまとめた英文書籍「Climate Change Mitigation and Development Cooperation」(Taylor and Francis社)の報告会を兼ねたもので、気候変動緩和策の国際メカニズムの潮流と、緩和策に寄与する国際協力の取り組みについて報告しました。

プレゼンテーションしたのは、JICA研究所の藤倉良客員研究員(法政大学教授)、国立環境研究所社会環境システム研究センターの亀山康子室長、森林総合研究所REDD研究開発センターの松本光朗センター長、地球環境戦略研究機関(IGES)の中村秀規特任研究員、国際開発アソシエイツの桂井太郎パーマネント・エキスパート、JICA研究所の豊田知世リサーチ・アソシエイト(RA)の6人と、JICA地球環境部気候変動対策室の森實順子専門嘱託です。

6人はいずれもこの書籍の執筆者で、JICA研究所の研究プロジェクト「開発途上国における気候変動の緩和策の研究」の研究分担者です。森實専門嘱託は、ODAの実施機関であるJICAの立場から「途上国における緩和策推進のためのJICAの取り組み」について報告しました。

このセミナーではまず、研究プロジェクトの代表を務める藤倉客員研究員が登壇し、「気候変動緩和策と国際開発の目的と概要」と題して、3月に刊行する書籍の概要を説明しました。この書籍の特徴について「アジアは途上国を中心に人口が急増していることに加え、経済発展に伴ってエネルギーの使用量の急速な増加が見込まれている。このためアジアは緩和策が急務であるため、アジアの事例を掲載している」と述べました。

国立環境研究所の亀山室長は「気候変動に関する国際的取組みと途上国の緩和行動」のテーマで発表しました。温暖化防止を巡る国際交渉についても触れ、「交渉が進むかどうかは途上国次第ではないか」との見方を示しました。

fujikura-seminor.jpg

藤倉 良 客員研究員

森林総合研究所の松本センター長は「緩和策によるREDD+への取り組みと課題」について報告。REDD+とは、森林の減少・劣化による温室効果ガスの排出を抑制するために森林を保全する活動のことですが、「森林は本来ならば二酸化炭素(CO2)の吸収源だが、実際は、全世界の炭素排出の20%が森林の減少と劣化によって起きている」という現状を報告しました。森林保全の取り組みにインセンティブを与えるような仕組みを作るべく、目下、国際的な話し合いが続けられています。

IGESの中村特任研究員は「低炭素型発展に向けた国際都市間連携の可能性」のテーマで発表しました。このなかで、都市は「問題発生源」であると同時に「課題解決主体」の役割をもっていると指摘し、都市同士が連携することにより、持続可能な都市づくりなど、気候問題により対処できるようになると述べました。国際交渉が難航している今、すでに基盤が形成されている都市間協力や地域レベルでの取り組みを広げることによって、低炭素化社会の構築を目指すべきと強調しました。

toyota.jpg

豊田 知世 リサーチ・アソシエイト

国際開発アソシエイツの桂井パーマネント・エキスパートは「気候変動対策における開発政策借款の有効性:インドネシアおよびベトナムの事例」のテーマで発表しました。開発政策借款とは、プロジェクト単位で融資をするのではなく、相手国の一般財政に組み込むスキームです。途上国の活動全体で気候変動対策が促進されるにはどうすればいいのかという問題に対して、桂井パーマネント・エキスパートは「開発政策借款を使えば(再生可能エネルギーの導入を促す政令や省エネルギー法など)政策・制度の改定を通じ、気候変動対策を促進できる」と利点を述べました。

最後に豊田RAは「円借款事業における温室効果ガス削減効果:発電部門の事例」のテーマで発表。インフラ整備をはじめとするODAにも環境負荷を削減する効果があるのではないかとの仮説のもと、円借款の発電事業を対象に温室効果ガスの削減効果を定量的に評価しました。2010年単年の温室効果ガス削減効果はCO2換算で1230万トンと、日本の排出量の1%に当たることを明らかにしました。

気候変動の取り組みは、温室効果ガスを削減する「緩和策」と、気候変動による影響を軽減させるために社会経済システムを適応させる「適応策」の2つに大別されます。JICA研究所は昨年、「Climate Change Adaptation and International Development」(Earthscan社)を出版しています。今回の書籍はこれに続く第2弾です。

開催情報

開催日時:2012年2月2日(木)
開催場所:JICA研究所

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ