アフリカ紛争予防研究の精査でワークショップ、ロンドンで開催

2011.04.22

JICA研究所は2011年3月15~16日、峯陽一客員研究員らのチームが取り組む研究プロジェクト「アフリカにおける暴力的紛争の予防—開発協力が果たす役割」のとりまとめに向け、チームのメンバーである研究者と助言者(アドバイザー)を集めたワークショップを英国ロンドンのJICA英国事務所で開催しました。

参加者は、メンバーの研究者としてJICA研究所から峯陽一客員研究員、武内進一上席研究員、笹岡雄一上席研究員(当時)、三上了研究員、片柳真理研究員の5人に加えて海外の研究者4人の計9人。このほか、3人のアドバイザーも出席し、個々の研究のブラッシュアップを目的に活発な議論が交わされました。

三上了研究員

ロンドンのJICA事務所で研究成果を発表
(中央:三上了研究員)

この研究プロジェクトの目的は、アフリカにおける紛争の発生メカニズムやその予防に役立ちうる制度のあり方などについて知見を得ることです。これを目指し、実際の研究ではまず、アフリカ10カ国を対象に、「水平的不平等」(同じ国の異なる集団を比べて平等か不平等どうか)、「政治制度」(権力を分散させるか集中させるか)、「人々の意識」(アイデンティティと敵意はどうか)について調査。その後、これらの3つの視点を組み合わせ、紛争の構造(社会・経済的な要因)と紛争のプロセス(政治的な要因)のインターフェイス(異なる種類のものを結びつけるときの共用部分)を探っていきます。

今回のワークショップでは、「南アフリカとジンバブエ」(峯客員研究員)、「ルワンダとブルンジ」(武内上席研究員)、「ウガンダとタンザニア」(笹岡上席研究員)などの比較研究の成果が報告されました。

また、計量分析を専門とする三上研究員は、アフリカ5カ国をフィールドに、それぞれの国で主要なエスニック集団※とそうでないエスニック集団の間で、実際に社会・経済格差があるのか、また各エスニック集団はそれをどう認識しているのか、についての「差」を分析し、その結果を発表しました。

例えばジンバブエでは、ショナとンデベレという2つのエスニック集団を比較したところ、家計調査でみる限り両者の間に経済格差は見られないが、ンデベレのほうが「自分たちは経済的に貧しい」と不満を抱いていることが分かりました。またナイジェリアでは、北部に住むハウサフラニのほうが、南部のヨルバやイボよりも貧しいといわれているにもかかわらず、ハウサフラニはそのように認識していないとの結果が出ました。

こうした“矛盾”について三上研究員は「ジンバブエでは独立後、ショナによるンデベレ弾圧があった。以後ンデベレは政治的に吸収され、独自に政治的利害を表明する機会を奪われたままになっている。ンデベレには政治的価値剥奪感があると思われ、それが影響しているのではないか」と指摘します。また、ナイジェリアの例については「ハウサフラニはナイジェリアの中では政治的に比較的良いポストを占めている。つまり、経済格差の現実がそのまま意識として現れるのではなく、政治的に平等かどうかといった側面も経済格差意識の醸成に大きな影響を与えている」と述べました。

各研究員の発表後、プロジェクト全体について議論が行われました。類似国をペアとした比較研究において両者の違いがうまく説明されていることや興味深く詳しい意識調査の成果が得られていることなどを含め研究プロジェクトとしての進捗状況を確証しました。

08年10月にスタートしたこの研究プロジェクトは、11年秋までに書籍の原稿を完成させ、12年中に英文書籍として発行する予定です。峯客員研究員は「ここまで到達するのにさまざまな苦労があった。特に悩まされたのは政情不安な国での意識調査の実施。この成果をぜひとも、紛争予防と開発をつなげる形で国際協力の現場に反映してほしい」と話しています。

関連研究領域:平和と開発

ムービー・コメンタリー

  • Dr. Arnim Langer
    University of Leuven
  • Prof. Samson Mwangi KIMENYI
    The Brooking Institute
  • Dr. Ukoha Okorafor UKIWO
    University of Port Harcourt
  • Prof. Frances Stewart
    Oxford University
  • Prof. Sakiko Fukuda-Parr
    The New School
  • Prof. Thandika Mkandawire
    The London School of Economics and Political Science

関連ファイル

問い合わせ先

JICA研究所企画課
TEL:03-3269-2357 FAX:03-3269-2054

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