JICA研究所、「実験経済学と開発政策への応用—バングラデシュの事例から」の題目で公開セミナーを開催

2013.02.20

2月14日、研究所は、近年急速に発展してきた「実験経済学」の手法を開発分野へ応用する可能性と、実際の研究事例を紹介する公開セミナーを開催しました。

本セミナーでは、バングラデシュ開発研究所(Bangladesh Institute for Development Studies: BIDS)から本分野で近年活躍の目覚ましいMinhaj Mahmud氏を招き、実験経済学アプローチを活用した同国の研究の事例と展望を紹介しました。

実験経済学とは、個人や家計、企業など現実の経済主体による意思決定や行動の規則性を、ラボやフィールドにおける実験を通じた観察によって見出そうとする方法論です。今日では、公共財の供給や金融市場、オークション等の様々な事例に関する実験と、その結果に基づいた開発政策への提言が行われています。

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バングラディシュ開発研究所 
  Minhaj Mahmud氏

本セミナー冒頭の挨拶で、加藤宏JICA上級審議役は、世界銀行の例を挙げ、2015年の世界開発報告書(World Development Report)で、実験経済学を取り上げる可能性があるなど開発分野で関心が集まっており、研究所でも以前から、この方法論を研究に導入していることを指摘しました。

Mahmud氏は発表の中で、実験による方法論を「行動を理解するための革命」と表現し、一定の環境下において個人がどのように意思決定をするのか、特にどうやって資源を分配するのか等の行動を観察し、開発学や開発政策にとって価値ある知見を創出する可能性のある分野であると強調しました。

続いて同氏は、今まで取り組んできているバングラデシュにおけるフィールドでの実験について発表を行い、1)アイデンティティと信頼の関連性、2)安全な水処理製品の無料配布、3)交通事故発生の要因に関わるドライバーのリスク選好の把握を目的とした実験的な手法などの紹介をしました。

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澤田客員研究員

1)のバングラデシュとインドの一部(西ベンガル)における異なる宗教を持つ住民間の信頼度を調べる調査では、宗教そのものよりも、その宗教の多数派か少数派かの社会的地位が経済的な決定に影響があることを示しました。
2)では、都市部における不特定の貧困世帯に対し、家庭内で安全な水に処理する製品を何種類か無料で配布した結果、製品を選択する上での正しい理解や安全な水への強いニーズが必ずしも製品の利用につながっていない点を挙げ、市場での製品のデザインや情報交換の必要性を認識し、今後の開発政策に反映することが大切だと述べました。この後、澤田康幸研究所客員研究員(東京大学教授)から、Minhaj氏の発表を踏まえ、こうした実験的手法の経済学における位置づけ、さらに、こうした取り組みが政策にもたらし得る様々な示唆の可能性につきコメントおよび補足がありました。

研究所では、宮崎研究員を中心にバングラデシュとの共同研究「バングラデシュにおけるリスクと貧困に関する実証研究」を進めており、Mahmud氏と澤田氏も研究分担者として、今回の発表で紹介のあった「交通事故発生の要因に関するドライバーのリスク選好」分析などに携わっています。この研究でも、フィールド実験の分析方法など、最新の手法を可能な限り採用しています。 

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Mahmud氏(左)、澤田客員研究員(中央)、宮崎研究員(右)

ムービー・コメンタリー

Minhaj Mahmud
バングラデシュ開発研究所 研究員

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