JICA研究所の研究員が人間開発とケイパビリティに関する国際学会で研究成果を発表

2016.10.19

「グローバル社会でのケイパビリティと多様性」をテーマとした、人間開発とケイパビリティに関する国際学会の東京大会が2016年9月1日~3日、東京の一橋大学で開かれ、JICA研究所のゴメズ・オスカル研究員、下田恭美研究員、伊芸研吾研究助手が、研究成果を発表しました。

ゴメズ研究員は「人権と人間の安全保障」のセッションで議長を務め、「同じ山頂を目指して:グローバルガバナンスにおける人権と人間の安全保障」のテーマで、分析結果を発表しました。

ゴメズ研究員は発表で、「人」に関する概念の中心に人間の安全保障を位置付けることの重要性を指摘しました。安全がいかにグローバルガバナンスの中心的な柱となってきたかを明らかにし、だからこそ、すべての「人」に関する概念を主流化する手段として人間の安全保障が力を持ってきた、と強調しました。

発表するゴメズ研究員

発表するゴメズ研究員

そして、ゴメズ研究員は、「人」に関する概念が衝突する具体的な例として、Responsibility to Protect(R2R)として知られる「保護する責任」を挙げました。ゴメズ研究員は、「保護する責任」が主権についての新しい理解と個人の重要性とを結びつけ、人間の安全保障と人権との調和のとれた形として考え出されたと説明しました。一方で、2011年のリビアへの人道的介入を例に、強制的な介入を強調しすぎると、人権に基づいて実行される介入と、結果を重視する人間の安全保障とで、考え方が相反すると指摘しました。

ゴメズ研究員は、最後に、「人」について、より広くとらえて、そこに立ち返ることが、意見の相違を解決する助けとなるだろうと述べました。そして、それを実現するには、少なくとも3つの課題があるとし、地球規模の脅威に対して、ショックに応じた対応ではなく、必要性に応じた対応へシフトしていくこと、開発の中に脅威の予防の考え方を取り入れること、発展した社会においても人間開発の存在意義をあらためて考えること、を挙げました。

「ビジネス、コミュニティと社会」のセッションでは、下田研究員が、「ビジネスを通した個人の選択肢の多様化」のテーマで、キルギスでのインクルーシブビジネスの社会文化的影響について話しました。

キルギスのイシククル湖周辺の現地調査に基づき、下田研究員は、インクルーシブビジネスモデルに参加している女性生産者が、家族からのサポートや現金収入という経済的影響だけではなく、夫やコミュニティからの尊敬を得ることで自尊心が醸成されるようになるといった社会文化的影響が、仕事の動機づけとなっていることを報告しました。下田研究員は、経済的影響と社会文化的影響の好循環がビジネスモデルを動かし続けていると指摘しました。

発表する下田研究員

発表する下田研究員

下田研究員は「参加者からビジネスモデルやその持続可能性について、示唆に富んだ質問やコメントがあった。活発な議論は、人間開発とケイパビリティアプローチについての知識を増やしてくれた。これからの研究に役立ていきたい」と、感想を述べました。

伊芸研究助手は、「障害と貧困」セッションの議長を務め、自身の研究「南アフリカにおける障害者の多面的な貧困に関する実証研究」の結果を報告しました。伊芸研究助手は、データと一連の分析手法を説明し、障害者は非障害者に比べて、教育や雇用、生活状況などいくつもの点で不利な状況に置かれていることを示しました。また、障害者の中でも、知的障害や複数の障害を抱えている人、成人男性、黒人、農村地域や部族地域の居住者がより深刻な影響を受けていることも示しました。

伊芸研究助手は会議に参加した所感として、「今回の学会テーマが障害に特化したものではないにも関わらず、私たちのセッション以外でも障害問題に焦点を当てたセッションが3つあり、予想以上に多くの研究者が障害に関連した研究を行っていることに感銘を受けた。このことは学術的にも障害問題への関心が高まっていることを反映しており、今後の研究の励みになる」と述べました。

発表する伊芸研究助手

発表する伊芸研究助手

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