jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

日本の土地区画整理の知見を世界の都市問題解決に生かす—書籍発刊セミナー開催

2018.11.01

JICA研究所は2018年10月18日、日本と世界での土地区画整理の実践例をまとめた書籍『Land Readjustment: Solving Urban Problems Through Innovative Approach』の発刊を記念したセミナーを開催しました。

開発途上国では、経済の急成長に伴って都市に人口が集中し、インフラ不足やスラム化、環境汚染などの問題が進行しています。その解決方法として注目されているのが、土地区画整理です。JICAは35年以上にわたり、途上国の都市計画行政に携わる担当者を対象に、日本の都市整備制度、特に土地区画整理に関する研修事業を実施しています。

開会のあいさつでJICA研究所の大野泉所長は、「日本の知見を紹介できたほか、JICAの研修事業を通じて構築されたネットワークを通して世界における多くの実践例が盛り込まれている点で、本書はJICAならではの成果となった」と発刊の意義を語りました。

最初に、本書の編者の一人、越智武雄JICA国際協力専門員が書籍の概要を説明し、第1章では日本の土地区画整理のコンセプト、第2章では災害復興としての日本の土地区画整理、第3章では世界の土地区整理事例、第4章ではJICAの技術協力と世界に土地区画整理が広まっていった経緯について書かれていることを紹介。「日本はもとより、世界19カ国・地域にも及ぶ事例が取り上げられ、土地区画整理に関する世界中の有識者ネットワークが確立された」と述べました。

続くパネルディスカッションでは、「土地区画整理手法がいかに世界の都市問題の効果的なソリューションとなり得るか」をテーマに、4人の有識者が発表しました。

編者を務めたフェリペ・フランシスコ・デ・ソウザ氏(左)と越智武雄JICA国際協力専門員

最初に、2005年にJICA研修に参加した経験を持ち、本書の編者でもあり第1章を執筆したフェリペ・フランシスコ・デ・ソウザ氏は、世界各国で実践されている土地区画整理の多様性と特徴について発表しました。「国によって土地区画整理の目的や課題は多種多様。それを理解するためには、ステークホルダーの参画度合いや、土地区画整理による便益を地権者と公的機関を含む全てのステークホルダーがどう分け合うかなど、さまざまな側面から土地区画整理のあり方を広義に捉える必要がある」と述べました。

日本大学の岸井隆幸特任教授(一般財団法人計量計画研究所代表理事)は、都市問題の根源は急激な人口集中にあるという前提のもと、「土地区画整理の主体が民間企業であれ公共セクターであれ、開発コストの分担と開発の利益分配についてのルールづくりが重要」と指摘し、農業機械が入れない小さな農地を区画整理することで生産性を向上させた例や、運河の整備時にその両側の土地も同時に開発した例などを紹介しました。

北海道大学の小林英嗣名誉教授(特定非営利活動法人都市計画家協会会長)からは、コロンビア第二の都市メデジンを例に、土地区画整理の貧困問題解決への活用について発表がありました。貧困層が不法占拠するスラム街に、ケーブルカーや鉄道といった公共交通システム、公園、図書館などの都市基盤インフラを整備した画期的な都市づくりを紹介し、「都市問題の解決には社会的包摂型の都市計画の視点が不可欠である」と強調しました。

左から、国土交通省の徳永幸久大臣官房技術審議官、北海道大学の小林英嗣名誉教授、日本大学の岸井隆幸特任教授

国土交通省の徳永幸久大臣官房技術審議官(都市局担当)は、日本の土地区画整理の特徴と実用例を紹介し、「この日本の知見を世界に広げるには、日本型の土地区画整理をそのまま輸出するのではなく、現地の事情に応じて日本の仕組みの良いところを適応させる工夫が求められる」と指摘しました。

さらに、JICA研修に参加したネパール、ブータン、コスタリカの3カ国からはビデオメッセージによる実践例の報告があり、世界のあらゆる地域で土地区画整理の取り組みが進んでいることを印象づけました。フロアを交えたディスカッションでは、「日本が途上国の都市計画に関わる意義は何か」といった質問があり、越智国際協力専門員が「土地区画整理は貧困解決のツールの一つとして有効」、岸井特任教授が「途上国での土地区画整理を支援することで、日本国内では見えていなかった新たな視点に気づかされるメリットもある」と答えるなど、さらに多様な視点から議論を深めました。

JICAの土地区画整理研修に参加した3カ国からのビデオメッセージも上映

最後に、本書の編者の一人、JICA研究所の細野昭雄シニア・リサーチ・アドバイザーが閉会あいさつに立ち、土地区画整理のアプローチが持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals: SDGs)のゴール11「住み続けられるまちづくり」の達成にも有効だと強調し、セミナーを締めくくりました。

関連する研究者

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ