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第9回青年海外協力隊研究セミナー開催—ユニークさゆえの好影響と課題とは?

2019.02.12

2019年1月11日、第9回青年海外協力隊(JOCV)研究セミナー「青年海外協力隊が途上国と日本にもたらす成果」が金沢大学角間キャンパス(午後の部/JICA研究所・金沢大学法学類共催)と近江町交流プラザ(夕方の部/ JICA研究所・JICA北陸共管)で開催されました。

開発協力だけでなく、ボランティア経験の社会還元など多様な目的をあわせ持つJOCV事業。その多面性ゆえに、一つの尺度や観点では活動を評価できない難しさもはらんでいます。そこでJICA研究所は、2011年から2016年に実施していた研究プロジェクト「青年海外協力隊の学際的研究」に引き続き、2016年から隊員の現地での活動と帰国後の社会貢献を調査する研究プロジェクト「国際ボランティアが途上国にもたらす変化とグローバル市民社会の形成」を実施中です。本セミナーはその一環であり、北陸地方では初開催となりました。

JICA研究所からは岡部恭宜客員研究員(東北大学法学部教授)、大貫真友子研究員、坂巻絵吏子職員が登壇。午後の部では金沢大学の学生および一般聴講者75人を前に、まずは坂巻職員がJOCVの概要と、自らの経験談を紹介したのち、岡部客員研究員が「青年海外協力隊がもたらす開発の成果—ソーシャル・キャピタルの観点から」と題した発表を行いました。

ソーシャル・キャピタル(SC)とは、ある行為を行うためにアクセスし、活用する資源(財、サービス、知識、技術など)が埋め込まれた社会的ネットワークを指します。岡部客員研究員は、隊員の人物像を応募動機によって分類すると、1)好奇心志向、2)ビジネス志向、3)国際協力志向、4)自分探し志向、5)自己改革志向、6)慈善志向という6つの類型に分けられること、また、活動の大きな成果のひとつである現地でのSC形成などについて発表。その上で、隊員はSCを形成する触媒のような存在で、集団内の結束を強化するだけでなく他集団とのネットワーク構築にも貢献すると述べました。その背景には、特殊な技能や知識がないからこそ現地の人々に深く共感しながら協働できる「弱い専門性の強さ」が隊員にはあるとして、中米のシャーガス病対策など、SCが好影響を与えた活動事例を多数紹介しました。

岡部客員研究員の発表を熱心に聞き入る聴講者たち

これに対し、本セミナーのコメンテーターで金沢大学人間社会研究域法学系講師を務める河合晃一氏が、SCの負の効果も知る必要があるのではと議論を喚起。これに対して、岡部客員研究員は、結束を強化するSCが強まり過ぎるとコミュニティが排他的になるといったマイナス面はあるが、隊員の場合はむしろ外部とつながるSCの形成に寄与できる可能性が高いなどと回答しました。

また、同じくコメンテーターを務めた金沢大学国際基幹教育院の岡田彩准教授からは、SCを強化できる隊員の特徴を、類型化された6つの志望動機と関連づけて分析すれば興味深い結果がでるのではという提案がありました。

大貫研究員は「元隊員の社会貢献:『どんな』元隊員が『どの』ボランティア分野で活躍しているのか?」と題した発表で、帰国後約10年経った今、新しいことを受容し変化に刺激を求めるタイプの元隊員が、無償で国際協力に貢献し続けていることや、一般市民に比べて元隊員は全体的に、健康・子ども・まちづくり・環境・国際協力の5分野で長時間ボランティア活動に参加していることなどを述べました。また合わせて、国連ボランティア計画が発行する『世界ボランティア白書(SWVR)2018』を紹介しました。

学生からは、大貫研究員の発表にあった外向的な人ほどボランティア活動に参加し、情緒不安定な傾向のある人は参加率が低いという内容に対し、情緒不安定な人はボランティアに向かないのかといった質問があがりました。これに対し大貫研究員は、向かないと解釈するのではなく、例えばその特性がボランティアへの参加を通じてどう変化するのかなど、検証していく余地があると回答しました。

帰国したボランティアの社会貢献について発表する大貫研究員

夕方の部では、一般からの参加者約15名を前に岡部客員研究員と大貫研究員が午後の部と同様の発表をした後、JICA北陸センターの仁田知樹所長がコメント。岡部客員研究員の「弱い専門性の強さ」がSCの形成に一役買っているという指摘は、SWVRにおいて述べられていた個人の活動の限界と多様なアクターとの協力の重要性と重なり合う点がある、とJOCVの功績の重要性を強調しました。

発表後の質疑応答では、海外離れが進む若者を巻き込むため、隊員の活動に対するサポートの重要性が増しているといったテーマで元隊員を中心に議論が深まるなど、今後の研究に役立つ貴重なフィードバックを得ることができました。また、本セミナーがMRO北陸放送のテレビ番組内で取り上げられ、注目の高さがうかがわれました。

岡部客員研究員(右奥)と大貫研究員(中央)の発表についてコメントする仁田所長

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