jica 独立行政法人 国際協力機構 jica 独立行政法人 国際協力機構

地球の持続性を重視した一人一人による社会変革に向けて—『人間開発報告書2020』発表会で議論

2021.03.02

2021年2月5日、国連開発計画(UNDP)は、2020年12月に発刊した『人間開発報告書2020』の発表会「新しいフロンティアへ:人間開発と人新世」を、オンラインで開催しました。

冒頭、外務省国際協力局地球規模課題総括課の吉田綾課長が開会のあいさつに立ち、『人間開発報告書2020』に記載されている地球の持続性の維持に向けた社会変容の重要性や、政府や企業、市民社会、アカデミア、一人一人の選択を通じた社会全体による取り組みの必要性について言及しました。

続いて、UNDPのペドロ・コンセイソン人間開発報告書室長が登壇し、30周年記念版となる『人間開発報告書2020』に込めたメッセージについて基調講演を行いました。「まず、課題として、例えば新型コロナウイルス感染症(以下、コロナ)により女性が仕事を失い、経済的に困窮しているように、我々は不平等が拡大する世界で新しいリスクに直面し、そのリスクは不平等を加速させている。このような状況で、我々は人間開発のゴールとは何かを再定義しなければならない。これまでの人間開発は、人々の選択肢を広げることを目指していたが、人間が地球に及ぼす悪影響により、その選択肢は少なくなってきている。そこで、『人間開発報告書2020』では、各国の健康、教育、生活水準を測定する人間開発指数だけではなく、一人当たりのマテリアルフットプリント(財とサービスに対する国内最終需要を満たすために国内外で採取した化石燃料などの物資の量を測る尺度)や一人当たり CO2 排出量という2つの要素を勘定したプラネタリー圧力調整済み人間開発指数という指標を取り入れた。この指数は、人間の進歩を定義する中心的基準に人間だけでなく地球の健全性も含めた場合、世界の開発の展望がどのように変わるかを示している。人間開発を進めるのに大事なのは、人々の福祉を向上させることだけを目指すのではなく、人々を変革の主体ととらえ、人々がさまざまな選択をできる状況を生み出すことだ」と説明しました。

UNDPのペドロ・コンセイソン人間開発報告書室長が基調講演

さらにコンセイソン人間開発報告書室長は、今後必要な3つの変化のメカニズムとして、第一に社会規範の変革により人々の行動を変えること、第二に研究、技術、イノベーションへのインセンティブ・投資や規制を通じて人々の行動を変えること、第三に自然に基礎を置く人間開発(生態系の保護・復旧など)を推し進めることを挙げました。コンセイソン室長は、「『人間開発報告書2020』は、地球への圧力を和らげながら、引き続き人間開発を進めるための道しるべとなるだろう」と強調しました。

続いて、UNDPの近藤哲生駐日代表がモデレーターを務めたセッションには、JICAガバナンス・平和構築部の室谷龍太郎平和構築室長が参加しました。室谷室長は、「『人間開発報告書2020』はコロナと気候変動が別々の問題ではないとしたところに意義がある。コロナがニューノーマルへの流れを引き起こしているのと同様、気候変動の問題もニューノーマルな社会へ変容するように促している。人間開発も人間の安全保障も人間中心の概念ではあるが、同時に地球を大切にする概念であり、本レポートは一見相反するように見えるものを両立させた」と評価しました。また、JICA緒方貞子平和開発研究所(JICA緒方研究所)のゴメズ・オスカル客員研究員、花谷厚研究員、牧本小枝主席研究員、武藤亜子上席研究員、室谷室長らが本報告書に対するバックグラウンドペーパーを執筆したことに触れ、人間の可能性や能力をどう伸ばせるのかを考える人間開発と、どうすれば危機に対応し防止できるのかを考える人間の安全保障は、それぞれ補足しあう概念だと紹介しました。

JICAガバナンス・平和構築部の室谷龍太郎平和構築室長がセッションに参加

最後に、JICAの武藤めぐみ上級審議役(JICA緒方研究所前副所長)が閉会のあいさつに立ち、「人間の安全保障や地球の持続可能性について対話が足りないのではと危惧していたが、この報告書がタイムリーな契機となった。提示されたフレームワークを用いて、行動変容について議論できるのは画期的。実際の行動にどうつなげていくか、引き続き議論に参加し、盛り上げていきたい」と締めくくりました。

関連する研究プロジェクト

\SNSでシェア!/

  • X (Twitter)
  • linkedIn
トピックス一覧

RECOMMENDこの記事と同じタグのコンテンツ